バランス能力に対する基本的な考え方

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バランス能力に対する基本的な考え方

 

「バランス」って何?「患者様に対して施行するバランス練習ってどうやってやるの?」「難易度設定が分からない」という疑問に答えていこうと思います。

 

内容が専門的なので、ある程度専門的な知識をお持ちの方や、理学療法士の資格をお持ちの方向けの内容なのでご了承ください。

 

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バランスの定義

代表的なバランス(能力)の定義を2つ挙げます。

別にこの定義を一言一句覚える必要はありません。

これを読んで理解できれば大丈夫です。

バランスは、身体重心の投影点を安定性限界(stability limit)と呼ばれる支持基底面の範囲内に保持する能力のことである。

上記の定義ではバランスは能力であると述べられていますね。

『安定性限界』の意味については後述します。

バランスは、重力をはじめとする環境に対する生体の情報処理機能の帰結・現象。
支持基底面内に重力を投影するために必要な平衡に関わる機能に加えて、骨のアライメント、関節機能、筋力などの要素がある。

こちらの定義ではバランスを機能面から捉えた定義ですね。

 

バランスとバランス能力

バランス」と「バランス能力」は区別して使用しましょう。

その違いを説明していきます。

バランス

姿勢調節における安定性に着目した概念です。

一定の支持基底面に身体重心線を収めることがその要件になり、姿勢調節に関わる多くの要素により遂行されるものです。

バランス能力

姿勢保持や動作において、支持基底面と身体重心の関係を空間的・時間的に適切に保ち、目的とする課題を安定に効率よく実行させる能力のことです。

 

バランス能力は9つの要素(サブシステム)に分けることができます。

バランス能力のサブシステム
バランス能力を構成する要素

バランス能力を構成する要素9つ(サブシステム)に分けられる。Sibley KM, (2015)

 

1.安定性限界  :支持基底面で重心を前後左右に可能な限り動かせる能力

2.運動システム :筋力や協調性

3.静的安定性  :立位姿勢が変化しても支持基底面に重心を維持させる能力

4.垂直性    :床面が傾いても重力方向に適切に姿勢を修正する能力

5.反応的姿勢制御:外力に対して支持基底面に重心を維持し、安定性を保つ能力

6.予測的姿勢制御:随意運動に先行して重心を移動させる能力

7.動的安定性  :変化する支持基底面に重心を継続的にコントロールする能力

8.感覚統合   :環境に合わせ感覚情報(視覚,前庭,体性感覚)の重ね付けする能力

9.認知的影響  :認知が付加されても姿勢の安定性を維持する能力

身体機能からみたバランス機能の構成要素と関連する症状・機能障害

上記の9つのサブシステムから成るバランス能力を機能で分類してみます。

大きくは「神経系の機能」と「運動器系の機能」に分けられます。

 

その2つはさらに「感覚系機能」、「認知機能」、「運動制御に関わる神経機構」、「筋機能」、「骨・関節機能」の5つに分けられます。

 

以下の表で、5つのバランス能力を構成する要素とそれに関連する症状や機能障害をまとめました。

身体機能からみたバランス機能の構成要素と関連する症状・機能障害

バランスの評価

下図に主要なバランス評価と、その評価から何を知ることが分かるかを載せておきます。

1~9は上のバランス能力の9つのサブユニットの番号に対応しています。

代表的なバランス評価

 

※Five times sit to stand test

5回立ち座りに要した時間を計測します。

14.4秒以上の時間を要する人の60%でバランス維持機能障害があり、15秒を超える場合に転倒リスクが74%上がることが報告されています。

 

※Performance Oriented Mobility Assessment

静止時や運動時の姿勢バランスの状態や遂行状況を定性的に段階づけたものです。

バランス検査9項目、歩行検査7項目の計16項目の下位項目で構成され、28点満点です。

背臥位での評価

バランスは身体の各節が協調的に働いて成り立ちます。

背臥位にて身体の各節の動きをそれぞれ評価しておきましょう。

評価例を示しておきますので参考にしてみて下さい。

頸部の運動

頸部を左右に回旋、顎を引き頭頚部を屈曲させることができるかを確認しましょう。

肩甲骨の動きと前方突出運動が可能か

肩甲骨を外転・内転・挙上・下制ができるかどうかを確認しましょう。

また、天井に向かって両手を突き出して肩甲骨を前方突出させてみましょう。

胸郭・脊柱・骨盤の可動性(固さ)を評価

脊柱の可動性については、手根部を検者の脊柱部分にあて、脊柱の上部から順に棘突起を腹側に押します。

脊柱のモビライゼーションを兼ねた脊柱の可動性の評価です。

体幹・骨盤の回旋

両腕を開いて、両ひざを立てて腰を左右に捻じってその可動性を評価します。

下部体幹の固定性と下肢の運動性

両ひざを立てて交互に股関節を屈曲していく(膝を胸に近づける)。その後、元に戻す。

可能なら両側同時に行ってみましょう。

股関節の伸展・外転の機能

股関節伸展の可動域を計測・股関節外転の筋力をMMTで確認します。

両膝を立て腰を持ち上げる(ブリッジ)運動で確認しても良いと思います。

可能なら片脚でのブリッジ運動も評価してみましょう。

立ち上がりや歩行に必要な体幹・下肢筋群の筋力を粗大的に評価する方法

簡単かつ時短で立ち上がりや歩行に必要な体幹・下肢筋群の筋力を粗大的に評価する方法を紹介します。

 

以下の動作を全て連続で5回、または5~10秒保持することができるならば、立位や歩行に必要な主な下肢筋力が保たれていると考えてよいと思います。

膝関節伸筋

片脚での膝関節屈曲30°程度のスクワット動作(浮かせた側の上肢は手すりを把持します。)

下肢伸筋群

椅子からの立ち上がり動作(上肢の使用不可)を反復

足関節底屈筋群

片脚でのつま先立ち(浮かせた側の上肢は手すりを把持します。)

股関節屈筋・外転筋群

立位にて一側の大腿部を持ち上げ(股関節90°・膝関節90°での保持)保持する(浮かせた側の上肢は手すりを把持します。)

バランスの良し悪し

「バランスが悪い」と一概に言っても原因が違う場合があります。

主に以下の3パターンに分けられるでしょう。

安定性が悪い3パターン

 

「バランスが良い姿勢・動作」の条件は以下の6つが挙げられます。

1.安定性が大きいこと
2.重心動揺が相対的に小さいこと
3.重心位置が安定性限界の中央付近にあること
4.動的(予測的)安定性限界が大きいこと
5.重心位置の変化を予測して、適切な支持基底面を作れること
6.動作の順序・タイミングが適切であること

バランス能力改善に対する理学療法の考え方

ここからが本題です。

バランス能力を改善するための基本的な考え方を紹介します。

3つの流れをおさえておく

バランス能力に対する理学療法の介入をするにあたって「3つの流れ」を押さえましょう。

1.力の流れをつくり、適切化する
2.情報の流れをつくり、適切化する
3.エネルギーの流れをつくり、適切化する

力の流れをつくり、適切化する

1.アライメントの調整、動作練習

2.個々の運動器の機能改善

3.疼痛の軽減

情報の流れをつくり、適切化する

1.動作練習

2.感覚入力の調整

3.ミラーセラピー

エネルギーの流れをつくり、適切化する

1.排痰・呼吸練習

2.運動負荷練習

やや難しい課題を行い、運動学習を促しましょう。

「やや難しい」といっても抽象的なので、具体的にいくつか紹介させて頂きます。参考にして下さい。

バランスの構成要素による分類(外側へ向かうほど難しい)

バランスの難易度

 

準静的とは、ゆっくりとした動作で、動作を行っている間に重心線は常に支持基底面の中に収まっています

 

また、慣性の作用が小さいので常にアライメントを修正しながら動作が進行します。

 

また、準静的な運動では動作中にアライメントの修正が可能なので、フィードバック情報が得やすいのも特徴です。

基本動作とバランス課題の難易度(下に進むほど難しくなる)

基本動作とバランス課題の難易度

 

バランス練習の進め方の例(1⇒7ほど難しくなる)

バランス練習の基本的な進め方

バランス能力の3つのレベル

1.姿勢保持課題:一定の支持基底面の一部に重心を保てるレベル
2.重心移動課題(支持基底面の変化なし):一定の支持基底面内で重心を移動できるレベル
3.動的動作課題(支持基底面の変化あり):変化する支持基底面に合わせて重心を移動できるレベル

上記の1~3をBBS(Borg Balance Scale)に対応させると以下のようになります。

1.椅子からの立ち上がり⇒

2.立位保持⇒

3.座位保持⇒

4.着座⇒

5.移乗⇒

6.閉眼立位保持⇒

7.閉脚立位保持⇒

8.上肢前方到達⇒

9.床から物を拾う⇒

10.左右の肩越しに後ろを振り向く⇒

11.360°回転⇒

12.段差踏みかえ⇒

13.タンデム肢位⇒

14.片脚立位保持⇒

BBSの評価を取り終わって、採点して終わりになってはいけません。

どの項目で点数が落ちているのかを把握しましょう

把握したうえで、適切な介入方法を検討していきます。

バランス能力を構成する要素で、低下しているものがあれば、その改善を目指しましょう。

動作練習を行うにあたって、その動作が行いやすくなるように条件を整えます(身体のメンテナンスを行います)。

ストレッチ運動やモビライゼーション、筋の活性化、必要な動作を相に分けて部分練習を行います。

基本的な身体機能の改善を図ります。

筋力の向上、筋の柔軟性の改善、足部機能の改善(足関節戦略の機能向上)、体幹機能・コアマッスルの促通を行います。

 

足底面は重要で、力や感覚情報を身体の上に伝える役割があります。

足部・足趾の可動域や足部のアライメント、足部の皮膚状態など、細かく評価しましょう。

静的安定性限界・動的安定性限界を拡大し、身体動揺は減少させましょう。

 

安定性限界

支持基底面を小さくした状態(閉脚立位)でバランス練習を行ったり、より大きな重心移動やステップ練習を行いましょう。

課題や環境を変えて適応性を向上させましょう

先ほどものせた図を参考に条件を色々変えてみましょう。

 

バランスの難易度

 

また、応用的な課題や二重課題などを用いて脳への負荷(情報処理の容量を奪う)を高めた状態で練習しましょう。

例えば、しりとりや四則演算での簡単な計算問題を行ったり、3歩歩く毎に手を叩いたりしてみます。

 

私たちは歩行という動作をいちいち考えて行っていませんよね?

無意識的に足が前に出ていますよね?

例えば、パーキンソン病の方は歩行を意識化して行っていることがあります。

意識するということは考えているということです。

考えると頭を使います。

二重課題の必要性

 

健常者ならキャパシティーの容量少し使うだけで済むのに対して、パーキンソン病患者は歩くだけで相当な量を使ってしまっていますね。

これが100%を超えると「すくみ足」となります。

 

パーキンソン病で例を挙げましたが、バランスが不良な人は少なからず我々よりも多く脳の容量を使い、たくさん考えてバランスを取ろうとしています。

二重課題の運動を行い、歩行をできるだけ自動化できるように学習させていきましょう

おわりに

学生には少し難しい内容でしたね。

でもバランス能力の向上やバランス機能改善は、臨床に出たらバランスに対してアプローチしないといけない場面に必ず遭遇します。

今から勉強しておけば臨床に出てすぐに効果的なアプローチ方法を実践できると思います。

 

臨床に出ている方に注意喚起です。

ただ「タンデム肢位」で立位保持したり、バランスパッドやエアスタに座るだけではダメですよ。

その人がバランス機能のどの要素が欠けているから能力が低下しているかを知る必要があります。

 

単純に筋肉が落ちているから?

足底の感覚障害があるから?

認知機能が低下しているから?

脳のキャパシティーが少ないから?

バランスが悪いのは色々な理由があり、その理由によりアプローチ法が変わっていきます。

 

この記事で全てのアプローチ法を書けるわけではありません。バランスについて勉強して臨床で活かしてみたい!と思えたら幸いです。

 

最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。

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