栄養状態の評価
リハビリ中いつも通りの負荷量で進めていた際に患者様から「今日、昼ご飯ほとんど食べれてなかったの。お腹空いてないんだもん。」と話されたことがあります。
その時間のそれ以降は負荷を落としたのですが、看護記録の食事摂取量や、血液データーの経時的な変化を予め確認してからリハビリを行っていきたいと反省しました。
今回はその反省を含め、栄養状態の評価を学んでいこうと思います。
体重
計測は1~2週間に1回行いましょう。
前回の体重と比較するのも大事です。
具体的には、体重の減少率とBMI(Body Mass Index)を算出しましょう。
体重の計測から算出すべき項目
・体重減少率(%):(通常体重(㎏)-現体重(㎏))/通常体重(kg)×100
・通常体重(kg):22×身長(m)×身長(m)
・BMI:現体重(㎏)÷(身長(m)×身長(m))
検査データ
病院のカルテには必ず各個人の血液データが載っていると思います。以下に栄養に関する検査データを紹介します。
血清総蛋白(TP)
血漿中(血液を放置したときの上澄みの部分)の約8%を占める多種類の蛋白成分の合計で総蛋白(TP:total protein)と呼ばれます。
総蛋白は60%のアルブミン(Alb)と20%のグロブリンが主成分です。
グロブリンはさらに4つに分かれます。
α1グロブリン・α2グロブリン・βグロブリン・γグロブリン
蛋白は主に肝細胞で作られ、血液中のさまざまな物質を運んだり、体液の濃度を調整する働きをします。
炎症・感染症・低栄養状態などでは、基準値より低くなります。また、肝硬変、肝がん、ネフローゼ症候群でも同様に数値が低くなります。
アルブミン(Alb)
上記にも示しましたが、アルブミンは総蛋白の60%を占めます。
注意して頂きたいのは、アルブミンは血中半減期(代謝や排泄などによって半分に減るまでに要する時間)が約3週間前と長いのです。
現状の栄養状態を把握する場合には他の検査項目も併せて確認する必要があります。

総蛋白とアルブミンの値は両方とも確認した方がいいの?どっちも似たようなものだから、どっちか1つでもいいような気がする…

アルブミン、αグロブリン、βグロブリンは肝臓でつくられますが、γグロブリンはリンパ球や形質細胞がつくります。
栄養不良の原因がどこにあるのかを確認するために両方の指標を使い分けます。
トランスサイレチン(TTR)
プレアルブミンとも呼ばれ、アルブミンよりも血中半減期が短いため、直近の栄養状態を最も反映すると言われています。
炎症反応
先ほどのAlb値や TTR値を評価する際は、以下に示すCRP値やWBC値とともに結果を見比べましょう。
検査値の上下が栄養状態の改善、悪化に伴うものなのか、炎症の改善、悪化によるものなのかを判断するためです。

栄養状態が改善して、総蛋白値やアルブミン値が改善すれば同調して炎症の状態を示すCRP値やWBC値も改善します。
CRP
また、CRP の上昇は肥満と関連しており、体重が減少するとCRP の値が減少することが報告されています。
逆を言えば、体重(特に内臓脂肪)の増加はCRPの上昇を意味します。
内臓脂肪の増加に関わる疾患として、心臓血管疾患、2型糖尿病などが有名ですね。
WBC
白血球のことですね。CRP同様、炎症の値を示します。以下のリンク先でも紹介しているので、確認してみて下さい。
電解質
Na(基準値:137~147mEq/L)
細胞の浸透圧の調整、酸・塩基平衡の維持、神経刺激の伝達、心臓機能や筋肉機能の調節、細胞内の酵素反応の調節などの働きをしています。
Cl(基準値:98~108 mEq/L)
いわゆる体内の「塩分量」です。
水分摂取が確実に行われているか、脱水の有無を確認する場合に用いられます。
検査結果を確認する以外にも脱水の簡易的な評価方法を以下のリンク先で紹介しています。
K(基準値:3.5~5.0 mEq/L)
ナトリウムと同様の働きをしています。
BUN(基準値:8~21mg/dL)
血清尿素窒素(BUN:blood urea nitrogen)のことです。低い場合は、尿素をつくっている肝臓の働きが悪くなっているか、タンパク質の摂取が極端に少ないことなどが考えられます。
四肢周径
上腕周囲径と下腿周囲径を計測しましょう。
上腕周囲径
利き手でない(麻痺のない)上腕の肩峰と尺骨肘頭の長さを測定し、その中心に印をつけます。
印の部分で周囲長を測定しましょう。
下腿周囲径
麻痺や拘縮のない下腿の、最も太いところで測定しましょう。
栄養素必要量の算出
その人が1日にどの程度のエネルギーを取り込まなければいけないかを算出しましょう。
この値を目安に、食事内容を検討していきます。
リハビリ職が直接かかわることは少ないかもしれませんが、私たちは職業上、患者様の栄養素必要量を高めてしまいます。
運動の負荷は私たち次第です。
その課題の負荷は適切ですか?
低栄養の方に、食事摂取によって得られる量を超えてリハビリしていませんか?
栄養素必要量の算出
総エネルギー投与量(kcal/日):25~30(kcal/日)×体重(㎏)
水分投与量(mℓ/日):30~35(mℓ/日)×体重(㎏)
ただし、この計算で得られた値は、身体活動レベルが「ふつう」の場合です。
「ふつう」とは一般的な生活をする日本人のほぼ半数が該当します。
具体的には、 座り仕事中心だが、一部は立って作業・接客、あるいは通勤・買物・家事、また軽いスポーツをするなど、いずれかを含む生活を指します。
栄養摂取量の過不足をみる
基礎代謝量
基礎代謝量とは、生命を維持していくのに必要最低限のエネルギーのことです。
基礎エネルギー消費量(BEE)ともいいます。
以下に、基礎エネルギー消費量(BEE)を求める計算式を示します。覚えるのは難しいので、どこかにメモを取っておくのが好ましいかもしれません。
Harris-Benedictの式
・男性=66.5+(13.75×体重(㎏))+(5.003×身長(㎝))-(6.775×年齢)
・女性=655.1+(9.563×体重(㎏))+(1.850×身長(㎝))-(4.676×年齢)
全エネルギー消費量
BEEを算出したら、次は1日の全エネルギー消費量を計算しましょう。
1日の全エネルギー消費量
全エネルギー消費量(kcal)=基礎代謝量(BEE)×ストレス係数×活動係数
活動係数
ストレス係数は障害係数とも呼ばれ、疾患ごとに消費するエネルギーが違います。
代表なストレス係数と活動係数を以下に示します。
ストレス係数
・骨折:1.1-1.3
・褥瘡:1.1-1.6
・感染症:1.1-1.5
・発熱:37.0以上で1°C上昇ごとに0.1追加
・COPD、ガン:1.2-1.4
活動係数
・寝たきり:1.0-1.1
・ベッド上安静:1.2
・訓練室のリハ
⇒20分程度:1.3-1.4
⇒1時間程度:1.4-1.6
⇒2時間程度:1.5-1.8
ちゃんとエネルギーが足りているか確認しましょう
最後に、先ほど求めた全エネルギー消費量と摂取したエネルギー量を比較してみましょう。
毎日200~300kcal多く摂取すると1か月で体重は約1㎏増加します。
逆に、毎日200~300kcal少なく摂取すると1か月で1㎏減少します。
栄養アセスメント
低栄養を評価するためのツールを2つ紹介します。
SGA(Subject Global Assessment:主観的包括的栄養評価)
検査者の主観で栄養状態を評価するもので、低栄養かどうかのスクリーニングとして用いられます。
引用サイト:株式会社メディカルレビュー社ホームページ
MNA(mini nutritional assessment:簡易栄養状態評価表)
主観的ならびに客観的評価を合わせた指標で低栄養の評価に優れています。
ヨーロッパを中心に広く活用されていますが、日本人高齢者にも適応可能であることが報告されています。
著作権の都合上、ここに貼り付けることができないので、以下にリンクを貼らせて頂きます。ご確認ください。
18項目と質問数が多いのがデメリットです。
時間を短縮したい場合は、更に簡易的な MNA-SFもあります。A~Fの6項目で、MNAとの相関が高いことが示されています。
コメント