退院後の支援の重要性
私の体験から基づいた話をします。新患(新しく入院してくる患者様)の情報提供書をみていると、「あれ?この前まで、うちに入院していた方じゃない?」と気づくことが少なくありません。
退院後に転倒した方、再梗塞となってしまった方など原因はさまざまです。
それらを生み出した原因はなんなのでしょうか。ひとつ、私は『この方の退院支援』について疑問を抱きます。
「前回の入院中に患者様・ご家族のHOPEを達成することができたから退院!」でいいのでしょうか。
入院中のリハビリは、特に理学療法ならば大部分が『運動をする時間』だと思います。
高齢者にとって1日に1時間~2時間の運動の時間があることはめったにないことだと思います。
入院するほど低下した身体機能の高齢者ならなおさらです。運動の習慣があった方はほとんど見かけません。
そんな方たちにとって、退院時の身体機能はピークだと思います。
毎日、強制的(言い方が悪くて申し訳ないです。)に“リハビリ”という形で1時間~2時間の運動を行ってきたのだから、身体機能は入院前に比べて高くなるのは当たり前。
退院して、元の生活に戻ったらどうでしょう?全てがそうとは言い切れませんが『入院するほど低下した身体機能』を構築したのは、その人の生活習慣による場合も少なくありません。
その生活習慣に戻ると、いつかは身体機能は落ちていくのは目に見えています。
もしこれを読んでいる方が回復期に勤務しているなら、なおさら退院後を見据えていかなければならないと思います。
自主トレーニングを継続して頂くために
回復期に勤務している理学療法士の退院の支援の1つとして自主トレーニングが挙がります。
しかし、自主トレーニングを行って頂くことはなかなか難易度が高いと思います。
いくつか理由はあります。その一つとして、入院時はリハビリのスタッフと一緒に嫌でも運動してきましたが、退院したら良い意味でも悪い意味でも「自由」です。
運動しようがしまいが当人の自由です。
私が実践している自主トレーニングの指導方法の一例を紹介します。
口頭で伝えてもだめ!
80~90歳で運動がきついのは当たり前の年齢の方に中殿筋の自主トレーニングを指導するとします。
「横向きに寝て!上の脚を膝を伸ばしたまま天井に向かって持ち上げて!10回を2セット!」なんて口で説明して、それを退院後に実施してくれる方がどのくらいいるでしょうか。
ちなみに私はやらないと思います(笑)。翌日には忘れていますよ。
口頭で伝えると、方法や頻度を忘れてしまいます。なので書面で伝えましょう。
可能であれば、入院中に退院後に行うトレーニングを行っている様子を動画にしてDVDですと分かりやすいと思います。
上の図は私が作成したものです。パワーポイントで作成すると、図を付けることができて分かりやすいです。
第三者にもトレーニング方法を伝えよう!
先ほども記述しましたが、口頭で説明しても忘れてしまうことがほとんどです。
また、退院してから「よし!自主トレーニングを始めるぞ!」と意欲的になれる方も多くはいないと思います。
みなさんも同じような経験をしたことがあるのではないでしょうか?
例えば、夏になる前にダイエットして可愛い水着を着たい!腹筋を割ってみんなを驚かせたい!など意気込んで、自宅でトレーニングを始めてみても1週間後には閑古鳥が鳴いてしまうような経験があるのではないでしょうか?
1人では継続するのが難しいから、トレーナ付きのジムに行ったり、誰かと一緒にトレーニングを行ったりしますよね。
それと同じです。退院したらトレーナー役の我々はいなくなるので、後は第三者に託しましょう!
第三者とは、ご家族、退院後に利用する訪問リハビリやデイサービスのスタッフなどです。
他のサービスのスタッフに委託するなら、入院中にきちんと情報を申し送っておくと良いでしょう。
また、可能であれば第三者にも自主トレーニングを指導しましょう。
リハビリにて、その運動をルーティン化させよう!
私の失敗談ですが、自主トレーニングを家族様に指導(リハビリを見学してもらい、実際に本人様とトレーニングしてもらう)して、方法を書面と動画に収めて退院前にお渡ししました。
2か月後に退院後の様子を調査する目的で、その患者様のご自宅に伺いました。

ちゃんと自主トレーニングを続けているかな…
その不安は見事に的中。書面と少し埃が被ったDVDが神棚に飾られていました。

これを見ていると元気になる気がするの

・・・。
いくら自主トレーニング方法を分かりやすく伝えても、やらないと意味がありません。
退院1週間前になって焦って自主トレーニングとして運動を指導するのも習慣化していないので、意味がありません。
入院中におこなったトレーニングをそのまま自主トレーニングに移行するのが良いと思います。
この件以降、別の患者様でリハビリの最初の20分は毎日同じ場所で同じトレーニングを繰り返しました。
後半になると患者様の方から「次はこれだったよね」「次はゴム(セラバンド)を使うやつね!」と言ってくれました。
その上で、先ほどのように書面で改めて自主トレーニングを指導しました。その患者様は退院した今でも自主トレーニングを意欲的に取り組んでくれています。
また、入院中に自主トレーニングを指導するのも1つの手だと思います。そうすることで自主的に運動を行う習慣を定着化させることができます。
きちんと自身で運動をしているかどうか確認もできます。私の場合、以下のように患者様にカレンダーを渡して、運動したらチェックしてもらいようにしています。
自主トレーニングが継続しやすい高齢者の特性
自主トレーニングが継続しやすい高齢者の特性について以下のような研究があります。
自主トレーニング継続群が非継続群よりもBBS得点が有意に低くまた、MFES(Modified Falls Efficacy Scale)の項目における屋外での生活活動に対する自己効力感が低かった事から動作能力や転倒経験に関係なく、転倒リスクが高く、屋外での動作に対する自己効力感が低い対象者は、自主トレーニングの継続が定着しやすい。一方、転倒リスクが低く、屋外での活動に対する自己効力感が高い対象者が自主トレーニングの継続が定着しにくいと示唆された。
「屋外を歩くことに対して不安感が強い人は自主トレーニングを継続してくれる可能性が高い」ということでしょうか。
MFES(Modified Falls Efficacy Scale)の検査をしてみて、自主トレーニングを継続してくれるかどうかスクリーニングしてみるのも良いかもしれません。
書籍の紹介
退院に向けてどんなトレーニングを行えばいいのか…と悩んでいる方に一読して欲しい書籍を紹介します。
基本動作の改善・生活動作の改善・主要な筋肉ごと筋力強化方法・大関節の拘縮予防体操・尿失禁や腰痛の予防などの介護予防体操など350ページ超の大ボリュームです。
この書籍に載っているほとんどのトレーニングは道具を使用しなくて良いものばかりです。
一般の方にも分かりやすく載っているので、自主トレーニングを作成するうえで役に立つと思います。
この書籍は疾患ごとに必要な動作・筋肉を鍛える方法が載っています。以下の疾患に対するリハビリ体操が載っています。
廃用症候群
パーキンソン病
関節リウマチ
脊髄損傷
肩関節周囲炎
大腿骨頸部骨折術後
変形性股関節症
腰椎圧迫骨折
呼吸器疾患
その他の進行性の病気
具体的には、片麻痺・廃用症候群・パーキンソン病については、障害老人の日常生活自立度の判定基準ごとに詳しく載っています。
また、それぞれの体操に対して、その目的と体操をする上での注意点が記載されています。
私の体験談から…
腓骨神経麻痺で足関節が底屈位になったまま拘縮してしまった患者様に補高靴を処方したことがあります。
あくまでもこれは代償手段です。入院中に機能的な改善が見込めなかったことに悔しさを覚えました。
なんとか改善して欲しいと思い、退院1か月前から自主トレーニングをご本人・ご家族に指導しました。
退院して2か月後に、その患者様が「元気になった姿を見せたい」ということで私に会いに来てくれました。市販のかっこいい革靴を履いて。
また、長期の入院による廃用や長年の不摂生な食生活により40~50m歩くと収縮時の血圧が140から190まで上昇する患者様とリハビリにて毎日歩行練習を行いました。
次第に歩行距離が伸びて、最終的には著名な血圧の変動なく(運動後、収縮時血圧が120~140くらいだったと思います。)2㎞を歩けるようになりました。
実はその方は自主トレーニングとして毎日朝食前と夕食後に病棟内を決められた距離歩いていたのです。
看護師や他の患者様から「あの人は毎日歩いているよ。頑張っているね。」と褒められていたのを耳にしました。
自分の疾患と向き合い努力して下さる患者様は、ほんとにリハビリの効果が良く現れる気がします。
努力できるように手助けするのが我々の仕事です。
今回の記事を読んでくれた同業者の方は、ぜひ自主トレーニングの指導を行ってみて下さい。
それが再入院のリスクを回避し、患者様のQOLを変化させる要因になるかもしれません。
最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
コメント