電気刺激療法の基礎~筋への作用編~
電気刺激療法は約200年も前からその治療効果が報告されています。
そして、約100年前に麻痺筋の治療として用いられてきました。
約60年前には疼痛の除去にも適応され、現在も治療の1手段として使われています。
今回は「電気刺激の筋に対する作用」にポイントを絞って解説していきます。
用語の整理
まず電気刺激療法を行うためには設定が必要です。
設定するにあたって覚えておかなければいけない用語がいくつかあるので確認していきましょう。
周波数
周波数は1秒間に何回パルスを送るかです。
しかし、単位は「回」ではありません。
専用の単位があります。その名も「Hz(ヘルツ)」です。
下の図をご覧ください。図が分かりにくい人は以下の質問を考えてみて下さい。
パルス幅
パルス(pulse)とは「拍動・鼓動」という意味です。
電気刺激療法の際に使用する用語としての「パルス」は「電流」のことを指します。
「パルス幅」とは「パルス(=電流)をどれだけの時間照射するか」です。
「幅」と書いているのですが、意味は「時間」なのです。
ややこしいですね。「パルス時間」と言い換えても良いと思います。
単位もμsec(マイクロセカンド)、msec(ミリセカンド)を使うことから、「パルス幅」は「パルス時間」と置き換えて良いことが分かるでしょう?
周波数とパルス幅を用いて問題を解いてみよう!
学生さん向けです。以上の説明を理解できたなら解ける問題です。挑戦してみましょう!
問題1 周波数を求めよ

ミリ秒??

「ミリ」は聞いたことあるんじゃない?
英語で書くと「m」だよ。これは『1/1000』という意味があるんだ。
ちなみに「μ(マイクロ)」は1/1,000,000を示すよ!

てことは1ミリ秒は1秒の1/1000ってことだね!

正解!今回の問題は50ミリ秒だから、50/1000秒だね。
まずはパルス幅を求めてみよう!

50ミリ秒の中に「山」が5個あるね…。
50÷5=10…?パルス幅は10ミリ秒かな?

その通り!1回10ミリ秒だよ。
では周波数を求めてみよう。周波数は1秒(=1000ミリ秒)の間に何回波が出てくるかを考えよう!

1000(ミリ秒)÷10(ミリ秒)=100(㎐)でいいのかな?

よし!大正解!周波数とパルス幅について理解ができたかな?
刺激強度
刺激強度は刺激する電流の強さです。
単位はmA(ミリアンペア)が良く使われます。
どのような効果があるの?
今回紹介するのは、末梢神経への作用と中枢神経への作用です。

あれ?筋への作用は?

筋線維を直接刺激すると必要な電流量はかなり大きくなってしまうんだ。
痛みが強くなってしまい、実用的じゃないんだ。
だから、実用的に電気刺激を行う際は、筋ではなく神経を刺激するんだよ。
末梢神経作用
末梢神経は大部分が身体の深いところを走っています。
だから、皮膚の表面から電気刺激を行っても深くまで届きません。
刺激する場所はどこでも良いわけではないのです。
しかし、筋ごとに電気刺激に対してもっとも反応しやすい部位が存在するのです。
神経の筋枝が深部からより表層の筋に入り込んでいく部位ですがあるのです。
これを運動点(motor point)といいます。
この部位上の皮膚に電極を置いて刺激することで筋収縮が得ることができます。
この筋収縮により、筋力の維持や強化の効果が得られるのです。
中枢神経作用
電気刺激により、感覚系伝導路が刺激されます。それによって反対側の大脳半球の興奮が起こることが証明されています。
つまり、電気刺激が脳損傷の回復を促通する可能性があると言われています。

『可能性がある』……。

エビデンスレベルが低いから、断定できないんだ。
実際には電気刺激を用いた分離運動や協調性の練習が難しく、巧緻動作の改善が難しいのです。
臨床で電気刺激を用いる場合の数値の設定
設定するのは主に周波数、パルス幅、運動強度の3つです。順番に見ていきましょう。
刺激強度とパルス幅の調整
結論から述べます。
②筋を収縮させたい場合→パルス幅は200〜300μsec
③脱神経筋(Denervated muscle)の収縮を起こす→パルス幅は10msec以上
強さ-時間曲線(strength-duration curve)
この図は有名ですね。強さ-時間曲線(strength-duration curve)と言います。
パルス幅が10μ秒くらいだといくら刺激強度を上げても運動線維の閾値に到達しないのが分かりますか?
大体40μ秒あたりから運動線維が興奮していきますね。
あまりにも強いパルス幅だと、感覚線維(AβやAδ)や運動線維は興奮せず、C線維(痛覚線維)が興奮し始めます。
これじゃあ治療になりません。痛いだけです。
適切な刺激強度、パルス幅があることを覚えておいて下さい。
周波数の設定
以下の図をご覧ください。
筋に単発の電気刺激を与えると、刺激後、0.01-0.02秒おいて、約0.1秒の瞬間的な収縮がおこる。これを「単縮」、または「攣縮」という。
これに対して、同じ電気刺激を頻回投与すると、加重が生じ、より大きな収縮力が得られることがある。これを「強縮」という。骨格筋の不応期は短いのである。
強縮には2種類ある。収縮曲線がギザギザな場合と、滑らかな場合である。ギザギザな場合を不完全強縮という。なめらかな場合を完全強縮とよぶ。引用:一歩一歩学ぶ生命科学
「活動電位」のとこに1本の棒があるのが分かりますか?
これが周波数を示します。
1Hzだと、1秒1回の単収縮が起こります。
これでは一定の張力は維持できません。
周波数が20Hz以上になると強縮が起こり始めます。張力を一定に保つことができます。
つまり、随意運動時に近い収縮を行うことができるということです。
筋力強化を目的とした電気刺激を行う場合、より完全な強縮を起こすため、50Hz〜100Hzの周波数を用います。
ちなみに30Hzより高い周波数だと収縮力が強く安定しますが、筋疲労を起こしやすいです。
また、遅筋と速筋でも興奮する周波数が違ってきます。確認しておきましょう。
速筋:30〜60Hzの高頻度パルス刺激で興奮
神経・筋に対する電気刺激条件
もう少し詳しくみていきましょう。
電気刺激による効果は個人差が大きいので刺激目的によって大まかに刺激条件を決めましょう。
細かい調節は患者様の感じ方や筋収縮の状態を見ながら行っていきましょう。
大まかな刺激条件を以下に載せておくので確認しておきましょう。
おわりに
いかがでしたか?うまく使えばリハビリがより効果的に行えると思います。
ただ、いきなり患者様に使うのは止めましょう。
なぜなら、怖いからです。「電気刺激」なんて聞いたら素人なら怖くないですか?
まず患者様に与える強度をあなたが試してみましょう。
人によって感じ方は違いますが、おおよその目安にはなるでしょう。
今回は、神経・筋に対する作用を中心に紹介しました。
次回は、「電気刺激の疼痛の除去効果」に触れていきたいと思います。投稿した際には、また読んでみて下さい。
最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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