歩行評価の基礎
理学療法を行うにあたり、評価は重要な要素となります。
実際の介入よりも評価の方が重要と言っても過言ではありません。
評価しないと、治療プログラムが作れないでしょう。
理学療法における評価は過去に色々な研究がなされているものが多く、それらを使うことで、新人の人もベテランの人も同じように患者様の機能を把握することができる便利な道具です。
ただ、新人とベテランで違うのは評価を取った後にどのような解釈を行うかという知識に差があるのだと思います。
評価を取って、動作能力を数値化して終わり!の新人さんは多くいます。
このように評価を取り、このように結果が出ました!だから何だろう?と、そこで疑問のまま終わってしまうのです。
特に学生の頃はそれで終わってしまうのです。
それだけ国家試験はパスできるから。
臨床ではそうはいきません。
解釈あっての評価であることを覚えて欲しいです。
今回は理学療法の評価を紹介しようと思います。
全ての評価を載せると膨大な量になるので、まずは学生の方でも知っている歩行の評価の基礎の部分からです。
こんな感じで活用すればいいんだ~と感じてくれれば幸いです。
歩行の評価
患者様で「歩きたい!」というHOPEを持つ人は多くいますよね。
この言葉の裏側には、「(歩いて)何かをしたい!」という意味が隠されています。
買い物にいったり、旅行行ったり…。
歩行は日常生活でもっとも使用される移動手段です。
「歩きたい!」という願いを持っている人は自分の力だけでこの能力を再獲得したいと思うことが多いと思います。
簡単に言えば「歩行を自立したい」ということです。
そういった人には歩行自立度の評価は重要だと思います。
現段階で、その人が自立できるほどの歩行能力を持ち合わせているのか?
それを色んな研究者が考えに考えて編み出した検証(評価)方法があるのです。
歩くことの大切さは以下の記事を読んでみて下さい。

10m歩行テスト
学生や臨床に出ている方も一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
名前の通り、10mの距離を歩いて、そこまでに要した時間を計ります。
とても簡単な評価ですが、ただ10m歩けばいいってものではありません。
きちんと方法を覚えておきましょう。
3mの助走距離を設けます。合計で16mの距離を確保しましょうね。
計測は2回行います。1回は快適歩行速度、もう1回は最大歩行速度です。
快適歩行速度は、被験者に普通に歩いてもらいます。
ここで注意したいのですが、快適歩行速度を計測するときに、無駄に教示をしないことです。
「普通の速度で歩いて下さい。」とか「いつもの歩く速さで歩いてください」と言わないことです。
歩く側としては、その一言で「意識」してしまうことがあり、計測結果に妥当性がなくなる可能性があります。
目印を教示して、患者様に「そこに向かって歩きましょう。」と一言でいいのです。
最大歩行速度については、しっかりと教示しましょうね。
目印を教示して「そこに向かって、できる限り速く歩いてみましょう」と伝えましょう。
また、歩行速度とは別に、10m歩くのに必要な歩数も数えましょう。
これを数えていくことで、歩幅や、歩行率を算出することができます。
10m歩行テストの結果から分かること
歩幅:10m÷歩数
歩行率:歩数÷歩行時間
歩行率とは?
ケイデンスまたは歩調とも言います。
歩行率とは、時間単位当たりの歩数のことであり、身長、年齢、性別等の影響を受けます。
要は「歩行の効率」のことです。
年齢が高くなるほど歩行率は下がっていきます。
これは歩幅や歩行速度が下がってくるためです。
単位は歩/分または歩/秒です。
快適歩行速度と最大歩行速度の結果
まずは、快適歩行速度と最大歩行速度の結果についてです。
快適歩行速度での測定:筋力や日常生活の移動能力を反映します。毎秒0.8m未満かどうかはサルコペニアの診断基準の1つとなります。あとは、有名なカットオフ値を紹介します。
- 「日常生活での屋外歩行自立」と「日常生活での屋外歩行一部自立」の境界線
⇒0.8m/秒(10m歩行時間12.5秒)
これは先ほどのサルコペニアの診断基準と同じですね。
- 「日常生活での屋外歩行一部自立」と「屋内歩行のみ」の境界線
⇒0.4m/秒(10m歩行時間25秒)
最大歩行速度
最大歩行速度での測定は再現性が高いです。
快適歩行速度は、その日の身体のパフォーマンスに左右されます。
例えば、「少し体がだるいな…。」と思った日には歩行速度は落ちるといった感じです。
その点、最大歩行速度では、「そこに向かって、できる限り速く歩いてみましょう」と教示しているため、その人の持てる限りの最大のパフォーマンスを知ることができます。
その日、その日の歩行速度のムラをある程度排除できます。
また、最大歩行速度は、体力レベルを反映しやすいです。
つまり、生活機能の変化を予測する指標となります。
他には、最大歩行速度が毎秒1m未満かどうかが、転倒の危険性を予測する指標となります。
結果と相関する要素
10m歩行テストは、色々な要素との相関があることも研究されています。
一部紹介しようと思います。
- 日本の歩行者用信号機は少なくとも毎秒1m以上の歩行速度が必要となります。
そのため、理想は快適歩行速度でも毎秒1m以上が必要です。
- 歩行速度が毎秒1m以下の方は、下肢障害、入院、死亡率が上昇すると言われています。
- 歩行速度が男性で1.50m/秒、女性で1.35m/秒未満では、心血管由来の死亡率が上昇すると言われています。
Timed Up and Go test(TUG)
これも有名な検査ですね。立ち上がり、歩行、方向転換の3つの動作を組み合わせて動的バランスを評価するものです。
椅子の背もたれに背中をつけて座っている姿勢から立ち上がり、前方3mにある目印に向かって歩き、そこで方向転換(目印を軸に周る)して椅子まで戻り、座るまでの時間を測定します。
再現性を高めるために、効果検証のため日をおいて再度検査するときには椅子は同じものを使いましょう。
また、椅子の先端を3mの線に合わせましょう。
TUGを行うときは、最大歩行速度で行いましょう。
繰り返しになりますが、対象者に対して最大努力を課すことで、 測定時の心理状態や教示の解釈の違いによる結果の変動を排除するためです。
結果の解釈
カットオフ値は13.5秒です。
- 13.5秒以上⇒転倒リスクが予想されます。
- 30秒以上⇒起居動作や日常生活動作に介助を要します。
※日本整形外科学会の運動器不安定症の診断基準は11秒がカットオフ値となります。
補足:運動器不安定症とは?
-公益社団法人 日本整形外科学会–
「運動器不安定症の定義と診断基準」
定義
高齢化にともなって運動機能低下をきたす運動器疾患により、バランス能力 および移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態
診断基準
下記の、高齢化にともなって運動機能低下をきたす11の運動器疾患または状態の既往があるか、または罹患している者で、日常生活自立度ならびに運動機能が以下の機能評価基準に該当する者
[機能評価基準]
(1) 日常生活自立度判定基準ランクJまたはAに相当
(2) 運動機能
1.開眼片脚起立時:15秒未満
2. TUG(3m timed up-and-goテスト):11秒以上
注意点
前々回の記事でも書きましたが、この2つの評価だけで治療プログラムを立案するのは止めましょう。というか、できないと思います。
覚えたものはすぐに使いたいと思いますが…。
歩行速度が低下している原因はたくさんあります。
関節可動域制限なのか、疼痛による影響なのか、筋力の低下なのか、心肺機能の低下なのか、感覚障害で自己フィードバックが難しいかもしれないし、バランス能力が低下しているかもしれないし…。
トップダウンまたは、ボトムアップにて様々な評価を行い、総合的にその人の歩行を自立にするために何が必要かを判断していきましょうね。
カットアウトなどの数値も大切ですが、もっと大事なのは、その人が何が苦手で、どのようにしてこれらの動作を遂行しているかを観察することです。
私は検査の中で時間がかかっている部分をみたりします。
TUGで言えば、立ち上がりに苦労しているのか、方向転換時にふらつきが生じているのかなど…。
それによっても治療プログラムは変わってきます。
例えば、立ち上がりが苦手であれば、TUGの検査とは別途に再度立ち上がりを見ていきます。
動作分析に落とし込んでいきましょう。
その人がどのような戦略をつかっているのか?そこを見抜いていきます。
座位の姿勢をみて、脛骨が床面に対して鉛直に配列できているかどうか見ましょう。
体幹の傾斜を大きくしている…座面に手をついている…それはなんで?
大腿四頭筋や大殿筋が弱いから?あるいは強すぎるから?それならばMMTで分かりますね。
股関節屈曲制限や足関節背屈制限があるから?ROMテストをして確認しましょう。
といった具合にです。まるで名探偵のようですね。評価を知っていることで謎を解き明かす武器となります。
おわりに
道具(評価)の使い方はとてつもなく幅広いです。
どうやって臨床に活かすか。
それは知識を蓄えること、臨床で活かすことの繰り返しです。
一朝一夕にできるものではありません。
今回の記事で、「ちょっと臨床で使ってみようかな…」と、知識を蓄えるきっかけになれば幸いです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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