インナーユニットとは?
体幹という言葉は『幹(みき)』と呼ばれるように、身体の安定性を保つために非常に重要な部分です。
安定性は姿勢の保持や・運動を制御する能力のことです。
また、立位姿勢や歩行能力にも関与します。
日常生活を自立するためには身体の安定性を高めることは必須です。
身体の安定性には、色々な要素がありますが、今回は筋肉についてです。
以下のリンク先の記事で「安定性」については少し詳しく紹介しています。参考までにどうぞ。
さて、筋肉の中でも体幹の筋肉、さらにそれらの筋肉の中でも身体の安定性に最も重要な『インナーユニット』について紹介させて頂きます。
最近ではメディアでも取り上げられるようになって広く認知されてきた体幹の重要さや、インナーユニットについて少しでも理解を深めて頂けたら幸いです。
インナーユニットの概要
「インナー」という言葉はご存じでしょうか?
下着も「インナー」と呼びますね。
直訳すると、「内部」という意味です。
インナーユニットの別名として、「深層筋」や「姿勢保持筋」などがあります。

インナーユニットという言葉より、姿勢保持筋のほうが分かりやすいですね!

インナーユニットは「深層筋」という別名からも想像がつくと思いますが、身体の深部に存在します。
そして、「姿勢保持筋」という別名通り、力学的に骨盤や腰椎の安定化に貢献します。

安定性に寄与する筋(インナーマッスル)は四肢にもありますね。
肩関節の腱板や股関節の外旋筋群などが有名です。

もちろん四肢の安定性も重要ですが、それらも「幹」の安定性があってこそです!
例えば、電車で急停止したときにサッとバランスをとりますよね。
その際にまず働くのがインナーマッスルです。

電車の中で立って乗っている人の中でグラグラしている人は
「あ、この人はインナーが弱いな」
と観察するのも面白そうですね!
インナーマッスルとアウターマッスル
「インナー」があれば「アウター」もあります。
よく上着という意味で用いられていますね。
直訳すると「アウター」には「表層」という意味があります。

インナーマッスルは姿勢の保持や関節の安定性に役に立つことが分かったけど、アウターマッスルはどんな働きがあるの?

アウターマッスルは発揮できる力が強く、主に関節を動かしたり、骨を守ったりする役割があります。
以下にインナーマッスルとアウターマッスルの違いを表にまとめた記事がありましたので参考にして下さい。
画像引用:インナーマッスルとアウターマッスル
ここが以下の話の重要ポイントです。
体幹のインナーとアウターを覚えておきましょう。
体幹の主要なインナーとアウター
インナー:横隔膜・腹横筋・多裂筋・骨盤底筋
アウター:腹直筋・腹斜筋・脊柱起立筋
インナーユニットの構成筋
インナーユニットは筋の名称ではありません。
体幹のいくつかのインナーマッスルを総称してインナーユニットと呼びます。
(unit:個々の組み合わせによる集団)
以下でインナーユニットを構成するインナーマッスルを紹介します。
横隔膜
起始:剣状突起、肋骨第7~12の軟骨、腰椎前面、上位腰椎の2つの左脚と3つの右脚
停止:脊柱の前縦靭帯と一体化する腱中心
横隔膜は、胸腔と腹腔をわけ、呼気専門の呼吸筋(安静時呼気)です。
腹横筋
起始:鼠経靭帯の外側1/3、腸骨稜の内唇、6つの下位肋骨の軟骨内表面、腰背(胸腰)筋膜および横隔膜と一体化
停止:骨に停止はしません。腱膜で終わります。
上位3/4は腹直筋鞘の前部を形成、下位1/4は腹直筋鞘の前部を形成し、恥骨に付着します。
作用としては、骨盤と胸郭の位置をコントロールします。
多裂筋
起始:仙骨、上後腸骨棘、腰椎の乳突起、胸椎の横突起、頸椎C4~C7の関節突起
停止:各起始部より上の第2~第4椎骨棘突起
作用:両側の同時収縮で体幹の伸展、片側が収縮すれば側屈及び回旋の働きがあります。
また、数個の椎体をまたいで脊椎の安定化に寄与しています。

アウターマッスルの腹斜筋・腹横筋、インナーマッスルの多裂筋、腹横筋は「コルセット筋」とも呼ばれます。
骨盤底筋群
骨盤の底から腹腔を支え、骨盤の安定性に寄与しています。また陰部を構成する筋群です。
浅層・中間層・深層に分かれます。
浅層(括約筋と起立筋)
外肛門括約筋や外尿道括約筋などの括約筋、球海綿体筋や坐骨海綿体筋などの起立筋により構成されます。
中間層
尿生殖裂孔を覆うように骨盤底前方を支持する尿生殖隔膜により構成されます。
また、尿道括約筋と連結して尿禁制にも関与します。
尿生殖隔膜は骨盤隔膜よりも浅い場所にあり、恥骨弓の間に張っている三角形の線維膜のことです。
尿生殖隔膜は上下2枚の筋膜よりなり、それぞれ上下尿生殖隔膜筋膜といい、特に下尿生殖隔膜筋膜は比較的厚く強靭なので会陰膜とも呼ばれます。
深層(骨盤隔膜)
尾骨筋と肛門挙筋(恥骨直腸筋、恥骨尾骨筋、腸骨尾骨筋)により構成されます。
肛門挙筋の持続的収縮により尿生殖裂孔を閉鎖し、骨盤内臓器の支持や排泄の禁制維持に関与します。
肛門挙筋の場所を動画で確認しましょう。
インナーユニット弱化による不利益
不良姿勢が続くと、インナーユニットの張力にばらつきが生じ、どれか1つまたは複数のインナーマッスルの弱化が起こります。
そうすると、インナーユニット以外の筋肉で支えないと姿勢を保つことができなくなります。
その結果、以下のような症状が出現します。
インナーユニットの低活動による影響
・姿勢不良⇒転倒の一因となる
・背骨を支えることができなくなる⇒腰痛や仙腸関節痛
・腸・生殖器の働きが悪くなり、尿失禁や便失禁してしまう
・呼吸が浅くなる
・身体がスムーズに動かなくなる
インナーユニットに対するアプローチ
インナーユニットを鍛えることで、身体の安定性だけでなく、重心動揺を抑える効果や、姿勢・運動制御能力(特に動的バランス)を向上させることができます。
また、インナーユニットの1つである腹横筋を鍛えることで腸が刺激されて便秘が改善しやすくなる報告もあります。
インナーユニットそれぞれ個別のアプローチ法を紹介します。
横隔膜に対するアプローチ
以下の方法をご参照ください。
横隔膜を鍛えるには腹式呼吸と同じような手法を用いますが、腹式呼吸との大きな違いは、お腹に手を置いたり、おもりを置いたりして、負荷をかけることです。
横隔膜を収縮させるときに負荷をかけることによって意識的に筋肉を鍛えることができます。
また、下腹部に両手を置いたり、バスタオルやクッションを置いたりするのも効果的です。
息を吸う
下腹部に乗せた手やクッションなどを持ち上げるつもりで、ゆっくりと鼻から息を吸います。
横隔膜は腹式呼吸をする際に収縮運動を起こします。
インナーマッスルなので体の表面から変化を感じることはなかなかできませんが、手やクッションが持ち上げられたり、引き下げられたりすることで意識しやすくなるでしょう。
横隔膜に意識を集中し、呼吸する際に肩や胸が動かないように注意しましょう。
息を口から吐き出す
下腹部に置かれた両手やクッションなどの重さを十分に感じながら、ゆっくりと口から息を吐き出します。
腹式呼吸の訓練では、できるだけ長く口だけで息を吐くことが求められますが、横隔膜を鍛える訓練では、特にこだわる必要はありません。
体の力を抜いて口と鼻の両方から吐いても大丈夫です。
上記を10回から20回繰り返す
下腹部に負荷をかけ、横隔膜の動きを意識しながら行う深い呼吸を1回当たり、10回~20回繰り返すとトレーニングになります。
週3~4回のペースで行うと効果的ですが、一度にやりすぎると過酸素状態となって気分が悪くなることがあるので注意が必要です。
腹横筋に対するアプローチ
「ドローイン」が有名ですね。
背臥位で膝を屈曲位で保持します。
2~3回ほど腹式呼吸をした後に息をゆっくり吐きながらお腹をへこませていきます。
息を吐ききってこれ以上はお腹がへこまないというところまでいったら、その状態をキープしながら浅い呼吸を繰り返します。
10~30秒キープしたら元に戻します。
背臥位で慣れてきたら座位や立位でも行ってみましょう
好きな時に場所を選ばず実施可能となるので、運動の継続が容易になると思います。
多裂筋に対するアプローチ
中枢神経系は運動に先行して腰部の安定性を確保するために深部の多裂筋を収縮させている(APAシステムとも呼ばれます。)ため、多裂筋へのアプローチは姿勢の安定に大きく関与します。しっかりと鍛えましょう!
好ましいのは下図の右側の支持四つ這いでの下肢挙上です。
10秒間保持させ、ゆっくり降ろす運動を10回繰り返しましょう。
上半身を支持することで、脊柱起立筋の活動が抑えられ(表在筋による支持が減少)、深層筋である多裂筋がより選択的に収縮することができます。
詳しくはこちらの文献をご参照ください。
骨盤底筋群に対するアプローチ
椅子に座り、膣や肛門の筋肉を強く締め、5秒間保ちます。その後、ゆっくりと戻していきます(下右図)。
踵を上げることで膣や肛門に力が入りやすくなります(下左図)。この状態で再び5秒保ちましょう。
この2つの動作を10回、1日2セット行いましょう。
骨盤底筋群のトレーニングは効果が出るまで3か月を要するという報告もあります。
長期間の運動になるので、3日坊主になる人もいるのではないでしょうか?
図のように頬杖をついて、少し臀部を後ろに突き出して膣や肛門を締めます。
本や新聞をみながらでもできるので、飽きっぽい人はこちらで運動してくださいね。

骨盤底筋群のみを鍛えた場合の尿失禁の治癒率は50%ほど。
インナーユニットを収縮させ、さらに抵抗を加えた高負荷トレーニングを行った場合の治癒率は80%ほどにもなります。

今回紹介したトレーニングをきちんと全て行うことが尿失禁改善への近道ですね。
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