誤嚥を防ぐ3つの扉“喉頭閉鎖”を解説
食べ物や唾液など本来は食道を通るものが気管に入る(声門を越えて食塊が侵入する)ことを誤嚥と言います。
私たちの身体は誤嚥しないような防御機構が備わっています。
有名なものとして「むせる」ことです。肺の空気を思いっきり外へ出す(咳をする)ことで間違って気管に入ったもの(誤嚥物)を押し出す役割があります(咳嗽反射)。
咳嗽反射とは別の防御機構として気管に到達するまでに3つの扉が存在します。
今回はこの3つの扉についてのお話しです。
喉頭閉鎖
3つの扉を総称して喉頭閉鎖と言います。
喉頭(喉仏;のどぼとけ)は咽頭と気管の間で、舌骨より下にあり気管より上にある器官のことです。
この喉頭には、誤嚥物を気管に届かないようにする3つの扉があります。
喉頭蓋レベル
喉頭蓋が反転することで喉頭に蓋(ふた)をします。
“こうとうのふた”で“喉頭蓋”なんですね。名前の通りですね。
声門上部レベル
喉頭蓋の基底部と披裂軟骨が近づくことで声門上部が閉じます。
機序としては具体的には以下のように説明されています。
2.甲状軟骨が拳上
3.喉頭蓋の基部は水平位となり拳上した喉頭口を塞ぐ(声門上部レベルの閉鎖)
4.披裂軟骨を支点に喉頭蓋の先端部分が尾側に倒れる(喉頭蓋レベルの閉鎖)
参考文献:川上 嘉明,小泉 政啓,秋田 恵一;喉頭蓋の解剖学的特徴に基づく嚥下咽頭期における運動の実際 ―看護系教科書における記述への疑問と実態―,東京有明医療大学雑誌 Vol. 6:7-11,2014
声門レベル
両方の声帯が近づくことで声門が閉じます。
発声するときに声門が閉じているのが分かります。
声門レベルの閉鎖訓練は発声を用います。
それぞれの扉に対する訓練方法
3つの閉鎖それぞれに対してアプローチしていく方法を紹介します。
喉頭蓋レベルに対するアプローチ
喉頭蓋の反転に直接アプローチする訓練はありません。
喉頭蓋を構成する組織に筋肉はない、つまり、自律的に動くことはないのです。
喉頭蓋が反転するために必要なこと(外力を作り出すもの)を以下にまとめました。
2.舌骨の前方移動
3.喉頭の挙上
4.舌根部と咽頭壁が接触する
『1』『4』について舌根部が後退することで舌根部と咽頭壁が接触します。
上記ポイントを満たすことで、食塊を下方向に押し込む力が増大し、結果として喉頭蓋の反転の有効性が高まります。
意義
咽頭期の嚥下圧生成源となる舌根部と咽頭壁の接触を強化する運動訓練.咽頭の収縮を促す訓練手技として考案されたが,舌の後退運動訓練にもなり得る可能性が示されている.
主な対象者
咽頭期の嚥下圧生成が不十分で,咽頭のクリアランスが低下した患者.咽頭期の舌根部と咽頭壁の接触不全,喉頭蓋谷のみ,または喉頭蓋谷を含む咽頭残留が認められる患者.
具体的方法
挺舌した舌を上下切歯で軽く保持したまま空嚥下する.1セッションに6~8回繰り返し,1日3 セッション,挺舌位を徐々に増しながら6~12週間行う.
注意点など
本法は空嚥下を利用する間接訓練手技で,直接(摂食)訓練に用いてはならない.摂食時に用いる嚥下法と誤解されがちな‘maneuver’や,舌突出癖と混同しやすい‘突出’を含まない名称の使用が望ましい.筋力増強トレーニングとしての機序や有効性(至適な訓練回数や訓練期間を含む)についてはいまだエビデンスは不十分.挺舌位が大きくなるほど嚥下筋にかかる負荷が増大する.
訓練法のまとめ(2014 版) 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会
『2』について、舌骨の前方移動に関する筋として顎舌骨筋やオトガイ舌骨筋が挙げられます。

『2』、『3』はシャキア法やCTAR法などを参考にして下さい。

声門上部レベルに対するアプローチ
喉頭挙上の低下は声門上部の閉鎖不全を招くので、声門上部に対するアプローチとして喉頭挙上の訓練も必要になります。
また、声門閉鎖訓練としてのpushing法やpulling法を取り入れた訓練法を紹介します。
①肘置きがある椅子に座ります
②1秒間息を止めます
③両手で肘おきを掴み、下に押し付けるように、力みながら息を吐きます
④今度は、肘置きを上に押し上げるように、力みながら息を吐きます
1回5分、1日に5〜10セット行いましょう。
声門レベルに対するアプローチ
先ほどの頁でちらっと話しましたが、両声帯が閉じるためには発声が必要です。
①肘置きがある椅子に座ります
②両手で肘おきを掴み、下に押し付けるようにしながら「あー」と発声します
③次に力みながら「あー」と発声します(硬起性発声)
血圧上昇や心疾患が既往にある方にはリスクが高くなる訓練法なので実施の際には注意しましょう。
参考文献
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