栄養障害とは?
引き続き、栄養について学んでいきましょう。今回は、栄養障害についてです。
栄養障害とは?
さまざまな程度の過栄養または、低栄養、および炎症反応の複合による亜急性または慢性の栄養状態で、体組成の変化と機能低下をもたらすものを指す。
Soeters P,et al.Clinical Nutrition27(5) 706-16,2008
栄養障害と聞いたら「低栄養」が最初に頭に出てくると思いますが、「過栄養」も栄養障害なんですね。
また栄養の摂取の過不足だけでなく、炎症反応が複合して栄養障害となることも覚えておきましょう。
低栄養の原因
低栄養は消費量と摂取量のアンバランスから生じます。アンバランスとなる原因を下に示します。
消費量が増える原因の「急性炎症疾患(侵襲)」を罹患している場合の身体の代謝変化を例にします。下の表をご覧ください。
侵襲部位を修復するために材料としてグルコースが必要になります。
その材料はどこから得れれるか(グルコースを得ることを糖新生といいます。)というと、腎と肝臓です。これらの臓器で糖新生が行われます。
そして、糖新生を行うための材料(アラニン・ピルビン酸・グリセロール)がさらに必要になります。
これらは脂肪組織や筋組織を分解して得られます。特に筋組織の分解が著明です。
「筋組織の分解」ということは、後々に筋力が減ってきてしまうことに繋がることが想像できるでしょうか?
これらの過程は抑えることは難しいです。人間の身体はそういうふうに作られているのですから。しかし諦めないで下さい!
栄養を全く摂取しないとどうなるの?
私たちは栄養を摂取することで、健康を維持しています。
仮に栄養を全く摂取しないとどうなるのか…。
ちなみにこの状態を「飢餓状態」といいます。
まず、肝臓や筋肉に貯蓄されているグリコーゲンが1日で枯渇します。
その後は、チクチクと脂肪や筋組織を分解して、そこから得られる脂質・蛋白質をエネルギー源とします。筋肉換算で週に2㎏減っていきます。
最終的に蛋白質が身体の中から喪失すると、窒息し、死亡します。
バクテリアルトランスロケーション
腸管は腸内細菌を腸管外へ排出し、身体内へ侵入することを防ぐバリア機能を有しています。
バクテリアルトランスロケーション
バリア機能が何らかの原因で破綻し、腸内細菌や毒素が腸管壁を越えて、血管内やリンパ管内に流入し、敗血症などを発症させ、生体が重篤な状態になること
以下にバクテリアルトランスロケーションの原因と、予防法をまとめました。
原因
・長期の絶食による腸管粘膜の萎縮
・免疫力低下
・腸管運動障害による腸内細菌の増殖
予防
栄養障害の原因
栄養障害の原因を主に3つに分けました。
⇒不適切な栄養管理、うつ・認知症などによる食欲不振
臓器不全(心臓、腎臓、肝臓、呼吸不全など)、関節リウマチ、がん
感染症、火傷、頭部外傷、脳卒中、大腿部頸部骨折、廃用症候群
急性疾患や外傷に関しては、私の勤めている回復期病棟などでは良く見かける疾患たちです。
そういう方たちも栄養障害が起こりやすいということを覚えておきましょう。
負のスパイラルと正のスパイラル
栄養には「負のスパイラル」と「正のスパイラル」が存在します。よく耳にする言葉なので覚えておきましょう。
負のスパイラル~低栄養から寝たきりへ~
低栄養になると、筋肉量が減少して日常生活動作(ADL)が低下し転倒のリスクが増加します。
また、免疫力機能が低下し、易感染症(感染しやすくなる)となります。
一度このような悪循環に陥ると、なかなか元の状態に戻すことはできません。
そして、最終的には寝たきり状態になる可能性が高くなります。
正のスパイラル~栄養ケアで生き生きとした生活を!~
「負のスパイラル」を断ち切るためには、早期の栄養評価と栄養介入などの栄養ケアが必要です。
介入後も経過をしっかり観察し・評価を定期的に行うことが大切です。
フレイルとは
ここでフレイルについてまとめると、相当なボリュームになるので、また別の記事で紹介させて頂きます。今回は概要だけ。
フレイル(Frailty;脆弱・老衰)とは、高齢期に生理的予備機能(心身および社会性など広い範囲でダメージを受けたときに回復できる力)が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、不健康を引き起こしやすい状態に陥ることです。
サルコペニアとは?
フレイルと同じく、概要だけ紹介させて頂きます。
サルコペニアとは、加齢に伴う筋力の減少、または老化に伴う筋肉量の減少のことです。
病因によるサルコペニアの分類
病因によって以下の2つに分けられます。
しかし、臨床ではこれらの原因は複合的に絡み合っているので、「この人は二次性のサルコペニアの活動に関するものが原因だ!」と単純に分類することはできません。
一次性サルコペニア
加齢性のサルコペニアのことで、加齢以外の原因が無いものを一次性サルコペニアと呼びます。
以下の二次性サルコペニア以外のものと考えて良いと思います。
二次性サルコペニア
活動に関連するサルコペニア(医原性サルコペニア)
寝たきり、不活発な生活スタイル、生活失調(体調不良)や無重力状態(ベッド上安静)が原因となりうるもの
疾患に関連するサルコペニア
重症臓器不全(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)、炎症性疾患、悪性腫瘍や内分泌疾患など
栄養に関するサルコペニア
吸収不良、消化管疾患、食欲不振、摂取エネルギー不足
重症度によるサルコペニアの分類
大きく分けてサルコペニアは「筋肉量」、「筋力(握力など)」、「身体機能(歩行速度など)」の3つで診断されます。
臨床では、握力検査や10m歩行テストなどで評価するのが簡易的で好ましいでしょう。
以下に重症度によるサルコペニアの分類を示します。
プレサルコペニア期
筋肉量の低下を認めるが、筋力や身体機能の低下を認めないもの
サルコペニア期
筋肉量の低下に加え、筋力か身体機能のどちらか1つが低下しているもの
重度サルコペニア期
筋肉量、筋力、身体機能全てが低下しているもの
サルコペニアの診断
2014年にアジアの専門家によるAWGS(ASIAN working Group FOR SARCOPENIA)
により日本人の体格に対応できるアジア人特有の診断基準が発表されたので以下に診断基準を示します。
参考書籍
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