【論文要約】肩甲骨の周囲筋の活動
私だけでなく、臨床で働く方々は勉強会だけではなく、書籍や論文で知識を得る方が多くいると思います。学生の方も勉強をする際に論文を読むのではないでしょうか。
特に論文は手軽でいいですよね。スマートフォンが1台あれば簡単に検索できます。
ただ、学生や臨床経験が浅い若手の人は論文に触れる回数がでベテランの方に比べて少ないと思います。「論文て何をみればいいの?」と、なんとなく全体を流し読んでいませんか?
今回は、そんな方々に向けて私が読んできた論文で臨床で役に立ったものを紹介します。要約をしていくので一緒に読んでいきましょう。過去の記事で紹介した肩・肩甲骨についての論文です。
論文紹介
一緒に読んでいくために、下のリンクを開いて、このサイトと見比べながら進めていくことをお勧めします。
井尻 朋人、高木 綾一、鈴木 俊明;「肩関節内旋, 外旋における等尺性収縮時の肩甲骨周囲筋活動」;理学療法科学 理学療法科学 27(2), 141-146, 2012-04-20
『1.はじめに』の要約
ここは流し読んでいいと思います。著者は、なんでこの論文を書こうと思ったのかが書いています。
要約するとこのようになります。
肩甲骨にはたくさん筋肉がついていますからね。
肩甲骨に付着している筋で、どの筋肉が強く働いているかが分かれば、臨床の場でそれらの筋を集中して鍛えることで効率的に肩甲骨の安定能を高めることができそうですね。
また、ここには著者の仮説が書かれていますね。
ここで著者は、この考えに対して否定的な意見を挙げました。以下のgif画像の肩甲骨にご注目です。
肩甲骨動いとるやんか!!
ということです。肩甲骨は『固定』されているわけではないのです。
著者は、外的負荷(今回の場合、肩関節の1st外旋)を打ち消す方向に応じて筋肉が働いて安定させているのでは?と考えたのです。
また、外的負荷を打ち消す方向に働く筋(動作筋)のみが働いているのでは?と仮説を立てました。
くどいですが、「じゃあどの筋肉が安定させているの?」という疑問を明確にする論文です。
動作筋・拮抗筋については次の『「2.対象と方法」の要約』をご参照ください。
「2.対象と方法」の要約
「対象」も流して読んでください。「方法」について、条件を一定にした座位姿勢で肩を等尺性収縮で内外旋させたときの肩甲骨の筋活動を測定しています。
測定する筋は、僧帽筋の上部、中部、下部、大菱形筋、小菱形筋、前鋸筋、肩甲挙筋です。
負荷量を、内旋では被検者の体重の5%、10%、15%としています。外旋は3%、5%、10%
「方法」の最後に書かれていることが重要です。論文中に使用されている「動作筋」と「拮抗筋」の定義について述べられています。確認しておきましょう。
なお,動作筋とは外的負荷より肩甲骨に加わる力の方向に対して,抗する方向の作用を持つ筋群を示し,拮抗筋は動作筋の反対の作用を有する筋群を示すものである.
また、外的負荷に対する動作筋・拮抗筋を以下に定義しています。
「3.結果」の要約
論文の結果を貼り付けます。横向きの[で結ばれている項目が有意な差を認めたものです。以下に文章でまとめました。
第1肢位内旋
動作筋(前鋸筋)⇒5%、10%、15%と負荷が上がるにつれて筋活動量が増加します。
拮抗筋(僧帽筋中部、大・小菱形筋)⇒5%、10%、15%と負荷が上がるにつれて筋活動量が増加します。
第1肢位外旋
動作筋(僧帽筋中部、大・小菱形筋)⇒3%より5%、5%より10%負荷で筋活動量が増加します。
拮抗筋(前鋸筋)⇒3%より10%で筋活動量が増加します。3%と5%、5%と10%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
第2肢位内旋
動作筋(僧帽筋上部)⇒どの負荷量においても有意な差はみられません。
動作筋(肩甲挙筋)⇒5%、10%より15%で筋活動量が増加します。5%と10%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
拮抗筋(僧帽筋下部)⇒5%、10%より15%で筋活動量が増加します。5%と10%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
拮抗筋(大菱形筋)⇒5%より15%で筋活動量が増加します。5%と10%、10%と15%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
拮抗筋(前鋸筋)⇒5%より10%、10%より15%で筋活動量が増加します。
第2肢位外旋
動作筋(僧帽筋下部、大菱形筋)⇒3%、5%より10%で筋活動量が増加します。3%と5%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
動作筋(前鋸筋)⇒3%より10%で筋活動量が増加します。3%と5%、5%と10%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
拮抗筋(僧帽筋上部、肩甲挙筋)⇒3%、5%より10%で筋活動量が増加します。3%と5%の間には筋活動量に有意な差はみられません。
「4.考察」の要約
だらだらと長く結果を書きました。要約すると以下のようになります。
どのくらいの筋活動量の増加があったか具体的な数字を以下の表に示します。
動作筋の定義は正しかったことが示されています。
つまり、以下のような考察となります。
2.拮抗筋は肩甲骨の位置を一定に保つ(静的安定性を得る)ために、動作筋と共に活動していること
以上の2つが肩甲骨を安定化させるメカニズムということになります。
また、拮抗筋は体幹の姿勢制御を行う働きもあることが先行研究で示されています。
おわりに
「肩関節の動きが悪いから肩関節だけに注目する」というのはだめ!ということが分かって頂けましたか?
肩甲骨の安定化に問題があるかどうかアセスメントした上で肩関節へのアプローチ法を再考しましょうね。
安定していないならば、上記の動作筋・拮抗筋の図を参考に筋肉を強化していきましょう。(今回の場合、筋力強化は等尺性収縮が好ましいです。)
論文を流し読みせずにじっくり読んだら理解度も格段に違うと思います。
そして「どうやって臨床に活かそうかな?」という疑問を常に持ちながら読み進めていきましょうね。
今後も定期的に論文の要約をしていこうかなと思います。最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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