明日から使える!ポジショニングの技術
今回も姿勢アプローチについてです。今回は、具体的にベッド上でのポジショニングの際に使う基本的な手技について例を提示して紹介させて頂きます。
明日からの臨床で使える内容なので一読して欲しいです。
ポジショニングは何のためにするの?
ポジショニングを必要とする人は誰?
私たちは寝ているときに少しでも不快感があると、寝返ったり、身体の一部分を動かして不快感を解消できます。私たちはポジショニングは必要ないでしょうね…。では、ポジショニングを受ける人の共通点は何でしょうか。
簡単に言うと、介護や看護を受けている人たちです。なぜ、介護や看護を受けている人たちはポジショニングを必要としているのでしょうか。
なぜなら、不快感を自分で解消できないからです。自分の意志で身体を自由自在に動かすことができない人は自分で不快感を取り除くことができないのです。
不快感は、身体のどこかに圧がかかりすぎていたり不良姿勢から出現します。これにより、褥瘡や呼吸が思うようにできなくなったり、末梢まで血液を循環させることができなくなります。
ポジショニングの目的
ポジショニングを受ける人たちは、何を目的としてポジショニングを受けるかというものを念頭に入れておくべきです。以下に主な目的を並べます。
今、あなたの勤務先や担当している患者様にポジショニングを必要としている方はいますか?
その患者様を思い浮かべてみましょう。そして「この人に対してポジショニングをすることで何が得られるのか。」と考えてみましょう。
大きくは2つ得られるものがあると思います。
2.身体活動を促進させること
具体的には以下の7つが挙げられます。
2.筋緊張を調節する
3.呼吸機能や消化機能を改善する
4.痛みを軽減する
5.褥瘡を予防する
6.血流を改善する
7.身体認識を促す(身体の中心や部位などの認識)
ポジショニングの評価
圧の評価
いざ、マットレスやピローを適切に使い、一時的に良姿勢を作れたとしても意味がありません。
ポジショニングを受ける人は自分で自由自在に身体を動かせないと述べましたが、長時間にわたる小さい動きや「ずれ」などでポジショニングした姿勢からずれてしまいます。
また、うまくポジショニングを行うことで筋の緊張が緩和してくると関節可動域が拡大し、大きな動きが可能になります。また、圧の状況も変化していきます。
ポジショニングをした後は見た目が良いかもしれませんが大きな圧がどこかにかかっている可能性もあります。
必ずその時の姿勢の観察と自分の手を該当部位に差し込み、圧の評価を行いましょう。
圧が均等にかかっているならば、ひとまずそれで成功です。次に時間経過による変化を追っていきましょう。再度、姿勢と圧の評価を行います。
長期間の評価も必要
次に、長期間のポジショニングの評価を行います。
導入して直ぐ、1週間、3週間、1か月というように定期的に評価し、その都度ポジショニングを更新していきましょう。
評価をするときには写真をとることも大切です。患者様一人ひとりに合ったポジショニングのマニュアルを作成し病棟の看護師にも方法を細かく伝達していきましょう。
圧がかかりすぎるとどうなるの?
圧がかかりすぎると、不快感だけでなく多くの弊害が生まれます。有名なのは褥瘡です。褥瘡について、日本褥瘡学会からの引用です。参考までに読んでみてください。
褥瘡とはなんでしょうか?
褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的に「床ずれ」ともいわれています。
褥瘡はなぜできるのでしょうか?
私たちはふつう、無意識のうちに眠っている間は寝返りをうったり、長時間椅子に座っているときはお尻を浮かせるなどして、同じ部位に長い時間の圧迫が加わらないようにしています。このような動作を「体位変換」といいます。
しかし自分で体位変換できない方は、体重で長い時間圧迫された皮膚の細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、これにより「褥瘡」ができます。また皮膚の表面だけでなく、皮膚の中にある骨に近い組織が傷ついている場合もあります。
褥瘡はどんな人がなりやすいのでしょうか?
自分で体位変換ができず長期間寝たきりで、栄養状態が悪い、皮膚が弱くなっている(高齢者、排泄物や汗により皮膚のふやけがある、むくみが強い、抗がん剤やステロイドなど薬の副作用で免疫力が低くなっている)人が、圧迫だけでなく摩擦やずれなどの刺激が繰り返されている場合は褥瘡になりやすいといえます。
褥瘡になりやすいため注意しなければならない病気として、うっ血性心不全、骨盤骨折、脊髄損傷、糖尿病、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患があります。
褥瘡の好発部位
次に、褥瘡が起こりやすい部位を見ていきましょう。
先ほど述べた、圧の評価は以上の部位に手を差し込んで見てください。ポジショニングはtry&errorです。繰り返しポジショニングを行い、効果的なポジショニングを探しましょう。
※褥瘡の好発部位は国家試験にも問われる内容なので、学生の方はしっかりと覚えておきましょう。
安定性・安楽性・安全性
3つの『安』を並べました。
まずは『安定性』が先です。力学的に身体を『安定』させることで姿勢筋の活動を最小限に抑えることができます。
力学的に『安定』することで褥瘡のリスクを減らし、『安全性』を得ることができます。また、力学的に『安定』することで心理的にも『安定』すると言われています。これを『安楽性』と言います。
引用画像:田中マキ子(2014).日常ケア場面でのポジショニング.照林社
安定性から見た観察ポイントと対処法
上の3つの『安』のうち、『安定性』にポイントを絞って見ていきましょう。
引用画像:田中マキ子(2014).日常ケア場面でのポジショニング.照林社
上の図の『摩擦力』が主に褥瘡の原因となっています。
そこで、以下から摩擦を減らすベッドのギャッジアップと、摩擦力を軽減する「抜き」という手技を紹介します。
背上げのメカニズム
摩擦を減らすためのベッドのギャッジアップを知る前に、背上げのメカニズムとなぜ摩擦が生じるのかというとこから学んでいきましょう。画像はクリックすることで拡大ができます。
背上げ時にはベッドは1点(背上げ軸)を中心に回転します。
人体も同様に1点(大転子付近)を中心に回転します。
この回転中心が一致すれば問題ないのですが、そう簡単にはいきません。マットレスや身体の厚みがあるのを忘れないで下さい。これらによって回転中心には「ずれ」が生じます。
マットレスと身体の間の摩擦係数を0と仮定します。そうすると、背上げに伴い、身体は前方に「ずれ」ます。でも実際には摩擦は存在します。下の図のような「ずれ」による移動はしません。
移動できないと身体は上の矢印の「ずれ」の力だけマットレスから圧迫を受けます。
頭部の部分にも回転軸の違いにより、身体は上方に移動してしまいます。(摩擦係数0とした場合です。)
同様に摩擦は存在するので上方へは大きく移動せず、マットレスから引っ張られるように圧迫を受けます。
さらに!実際は、患者様それぞれの身体機能やベッドの構造やマットレスの素材など多様な条件から負担を受けてしまいます。
摩擦を減らすギャッジ方法と「抜き」
圧迫は不快感となり、褥瘡へ繋がってしまいます。さて、不快感の原因となる圧迫を取り除いていきましょう。
背上げ軸と大転子を合わせる
1.まず、ベッドをフラットな状態にして患者様を背臥位(仰向け)にします。背上げ軸と大転子を垂直に揃えましょう。
自分の病院ではベッドのフレームに「▲」のマークがあり、そこに大転子を合わせるように指示されています。マークがあればケアワーカーさんや、看護師にも分かりやすいですね。
しかし、どこの病院のベッドにも「▲」のマークがあるとは限りません。
そういうときは、頭側のベッドフレームと頭頂部の距離を予め測っておきましょう。「頭とベット柵の距離を〇cmにして下さい。」という表記で伝達するのが良いと思います。
「あし」部分をギャッジアップ
次にギャッジアップを行っていくのですが、先に「あし」の部分を上げていきましょう。先に背上げをしてしまうと頭部や臀部に摩擦による圧迫を強く受けてしまいます。
「あし抜き」を行う
「あし」の部分を上げたら一旦ギャッジアップは止めましょう。「抜き」の作業に移ります。
片手で下腿を抱えて大腿がマットレスから離れるぐらいに軽く浮かします。もう片手で衣服やシーツのしわを伸ばしたら、脚を降ろします。これは片脚ずつ行いましょう。
引用画像:明日から役立つポジショニングハンドブック
背上げを行う前の準備
背上げをする前に両膝を立てて、臀部とベッドの隙間に丸めたタオルを詰めます。
これは、背上げする際に前方への滑りによる「ずれ」を軽減するためです。(摩擦はあるにしても背上げすることで、少しは前や前方に滑ってしまいます。)
ギャッジアップ開始
背上げ⇒「抜き」⇒背上げ の順番で2回に分けて背上げを行いましょう。
背上げのギャッジアップは「あし」のギャッジアップより大きいことがほとんどです。介助下で食事をする場合ならなおさらです。
「ずれ」や圧迫も当然大きくなるので慎重に上げていく意味で2回に分けます。
再度、「抜き」の作業へ
背抜きは、患者様の肩甲骨に手を回して肩を前に出すように抱き起こしてマットレスから背中を離します。
そして、身体を抱きかかえたまま、衣服やシーツのしわを伸ばします。また、あしの「抜き」同様に左右1つずつ行いましょう。
さらに!ポジショニングの基礎を学びたい方へ…。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回の内容に関連して、noteにて『明日から臨床で使える!ポジショニングの教科書』を作成致しました。
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ポジショニング、「なんとなく」になりがちですよね。その「なんとなく」を減らしていくための方法が具体的に示されており、初学者にはとても有意義なnoteです!
明日から臨床で使える!ポジショニングの教科書|hayato@理学療法の基礎を発信! @kimamareha_blog #note https://t.co/sL4ldxhg3e
— SNSI_臨床日記 (@SnsiPt) June 7, 2020
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おわりに
ポジショニングの基礎を紹介させて頂きました。
前回も話しましたが、1日のうち、寝ている時間はリハビリの介入時間よりも遥かに長いのです。まずは患者様の生活時間を安全に安楽して過ごしてもらうのが先ではないでしょうか?
また、ポジショニングを行うことでリハビリの効果は高まります。是非、今回の内容を明日からの臨床に役立てて頂きたいです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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