猛暑に備えろ!熱中症を予防しよう!
暑い季節がやってきましたね。私が勤務している病院は回復期なのでしばしば外出練習を行うのですが、この時期は大変です。何が大変かというと…
暑い!
とても暑いです。屋外の歩行練習や走行練習、電車やバスを使った外出練習で1時間以上も屋外を歩きっぱなしで、私たちもヒーヒー言ってます。一緒に歩いている患者様ならなおさらきついと思います。
きついだけではなく、屋外練習はリスクも伴います。
それは、『熱中症』です。よく耳にする言葉ですね。私の病院では、飲水をこまめに摂取することや帽子の着用を徹底して直射日光を避けるように取り組んでいます。
今回はそんな熱中症について予防と対策を紹介します。
熱中症とは?

熱中症の予防?日差しに直接当たらなければ大丈夫でしょ?

それは間違ってますよ!
熱中症は暑い環境ならどこでも起こりうる病気です。人混みのなかで倒れる人がいるのもそうです。
熱中症のメカニズム
人は身体の中で熱を産み出します。産み出すだけじゃ、体温は上がりっぱなしになりますね。
人は恒温動物です。体温は一定に保たれています。
どのように保つかというと…。
1.産生した熱を外に逃がすために、皮膚に近い血管が拡張して血流量を増加させます。
そうすることで温まった血液を外気に触れやすくするのです。つまり、冷ますということです。
2.また、汗をかくことで汗の水分が皮膚の上で蒸発するときに熱が奪われ(気化熱)ることで体温調節を行えるのです。
熱失神
先ほど話した、血流量が増加するということがポイントです。
血流量が増加することで末梢(手足の指先)まで血液が行き届きやすくなるのですが、あまりにも血流速度が速くなると、中枢(脳)のほうの血液量が少なくなります。
血液は酸素を運ぶ役割がありましたね。
中枢への血液量が減るということは、中枢が酸素不足(酸欠)となってしまうのです。これによって眩暈(めまい)や軽い意識消失を生じます(熱失神)。
熱疲労
また、汗は体内から出てくる水分です。じつは汗は血液から作られるのです。
つまり、汗をかきすぎると体内の水分が減ってしまいます。そうなると身体がだるくなったり(全身倦怠感)、吐き気や頭痛が出現します。(総称して熱疲労といいます。)
熱痙攣・熱中症
「熱中症を予防するなら水を飲まないと」という考え方も100点の答えではありません。
汗を舐めたことがありますか?しょっぱいですよね?汗には塩分(電解質)が含まれています。水分補給をするときは塩分も補給しましょう。
水だけでは電解質は取り込めません。電解質不足になるとどうなるでしょうか。
生理学を学んだみなさんなら分かると思いますが、筋肉を動かすには電解質が必要なのです。
つまり、電解質不足は手足がつるという筋肉の痙攣(けいれん)が起こります(熱痙攣といいます)。
こういった症状が長時間続くと重篤な意識消失となります。これを「熱中症(熱射病)」といいます。
熱中症は怖い!という意識を持ちましょう。
タイトル通りです。危険認識をもつためには危機感を持たないといけません。まずは下の図を見てください。
熱中症死亡者数の年次推移
人口動態統計(厚生労働省)に基づく、熱中症死亡者数の年次推移を示しました。1994年を境に死亡者数が大きく増加していますが、1995年に行われた国際疾病分類の変更に伴う死亡診断書作成法改訂がその原因の1つと考えられています。
1995年以降に限って見ると、死亡者数には増加傾向が見られます。第一の要因は人口の高齢化です。死亡率の高い高齢者の増加によって熱中症による死亡者が増加しています。2000年以降では、全死亡者のうち、男性の52%、女性の85%が65歳以上の高齢者です。もう1つの要因は、猛暑の年(1994年、2004年、2007年)の高い死亡率と冷夏の年(2003年)の低い死亡率に示される気温との強い関係です。温暖化と高齢化による、熱中症死亡者の増加が懸念されます。
参考画像・引用文献:熱中症患者の発生状況と今後の予測|環境儀NO.32|国立環境研究所
1995年に死亡した人の原因分類として「熱中症」を加えたため1994年から1995年にかけてグッと上がっていますが、それを除いたとしても増加傾向です。
年齢階級別・日最高気温別に見た熱中症患者発生率
次に、年齢別でみてみましょう。
65歳以上の方の熱中症の発症率が格段に高いですね。
高齢になると、汗腺が萎縮したり生理的に体温調節能が低下するためです。自身を振り返ってみましょう。
✔若いころに比べて足から汗をかきにくくなったら汗腺の老化が始まっている。
✔頭から汗をかきやすくなったら老化が進んでいる可能性がある。
また、子供も熱中症になりやすいです。
コリン感受性が高く、血管が拡張しやすかったり、汗腺のサイズが未発達なのです。その代償として、頭部や体幹での皮膚血管(皮膚の表面に近い血管)をより拡張します。
熱中症患者の発生状況と今後の予測
たまに患者様で、昔は窓を開けたり扇風機で過ごしていたからと、今現在もそのように夏を過ごしている方もいますが自殺行為です!昔とは気温の上がり方が違うのです!
温暖化すると、平均気温が上昇するだけでなく、暑い日(真夏日や猛暑日)が増加すると言われています。特に、発生率の高い猛暑日の増加は、患者の増加につながります。
熱中症による痛ましい“事件”
最後に下の動画をご覧ください。非常に心が痛む悲しい事件です。これ以上熱中症の被害者を出さないためにも熱中症をしっかり予防していく必要があります。
熱中症の予防
水分補給・休息
暑い環境のなか、適切な水分補給のタイミングは基本的には口渇感(のどが渇いた!と感じること)を感じた時で良いです。
水分だけでなく電解質を同時に摂取できるスポーツ飲料、または経口補水液が好ましいです。
経口補水液は買うと高いですが家にあるもので簡単に作れます。
水 :1ℓ
塩 :小さじ1/2
砂糖:大さじ4と1/2
子供の注意点
子供に関しては発汗量と同等の水分を補給した場合でも、深部体温は若年成人より高くなるため、子供の熱中症対策は水分補給では不十分です。
高齢者の注意点
先ほど『適切な水分補給のタイミングは基本的には口渇感(のどが渇いた!と感じること)を感じた時で良いです』と記述しましたが、高齢者は違います。
高齢者に関しては、口渇感が減少する場合がよくみられます。
そのため、口渇感が起こる前に水分補給を行いましょう。「20分運動したら水分補給をしよう」と時間で決めるといいかもしれないですね。
暑熱順化
暑いからと言って、全く外に出ないというのはダメです。それでは暑さに対する抵抗性が落ちてしまいます。
暑熱順化とは体が暑さに慣れることです。暑熱順化すると低い体温でも汗をかきやすくなり、汗の量は増えます。さらに皮膚の血流も増加します。熱が逃げやすくなり体温の上昇は防ぎます。その結果、暑さに対して楽に過ごせるようになり、夏バテや、体のダルさを防ぐことができます。また、汗腺で作られる汗は、毛穴から出る前に塩分が血液中に再吸収されます。暑熱順化すると、この塩分の再吸収が更に高まるので、汗に含まれる塩分が少なくなります。つまり脱水になりにくくなります。
暑熱順化するためには「やや暑い環境」で、「ややキツいと感じる」運動を1日30分行うと良いです。自転車にのる、お風呂にはいるなど。早歩き(3分)ゆっくり歩き3分を繰り返すことも良いようです。
服装
熱がこもらないように(熱放散能が高い)風通しの良い服を選びましょう。
また、直射日光を避けるために帽子の着用を心がけましょう。
食事・栄養
時間が無くて、朝ごはんを食べない人は多いのではないのでしょうか?
朝食を抜くことは非常に危険です!
熱中症は午前中に多いと言われています。理由として、朝食と深い関係があります。
食べ物には水分がたくさん含まれているんです。お米には約60%の水分が含まれており、野菜も種類によって違いますが90%もの水分を含んでいます。
朝食のお勧めは白ご飯とお味噌汁です。
味噌汁に茄子やジャガイモ、玉ねぎ、ワカメなどの夏野菜や海藻をいれましょう!
これらの食材は汗によって失われた水分と電解質を効率的に吸収できます。時間がない人は、前日の夜に作り置きしておくのが良いかもしれないですね。
また、牛乳も朝食に適しているとされています。血中に含まれているアルブミンというたんぱく質は牛乳にたくさん含まれています。
アルブミンは血管に水分を取り込む性質があり、アルブミン濃度が上がれば血液量が増えます。つまり、体温調節がし易くなるということです。
暑さ指数(WBGT)
暑さ指数(クリックして拡大)
●暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。
●単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。
●暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい 1湿度、 2日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 3気温の3つを取り入れた指標です。
日本生気象学会及び日本体育協会より暑さ指数に応じた日常生活、運動時における熱中症予防のための指針が示されています。熱中症予防にぜひご利用ください。
環境省の「熱中症予防情報サイト」で、各地の暑さ指数が確認できますので、暑さ対策の参考にしてください。⇒ 環境省の「熱中症予防情報サイト」
脱水チェック!熱中症予備軍の“かくれ脱水”の簡単な見つけ方
脱水かどうかを簡単に見つける方法を紹介します。
①爪の毛細血管の再充血時間(CRT)を測定
1.手をテーブルなどの上に置きます(心臓の高さに手を置くため)。
2.中指の爪をギューッと圧迫します。(そうすると血流が止まり、爪先が白くなるはずです。)
3.そのまま5秒間圧迫を続けます。
4.圧迫した指を離します。その瞬間から指先がピンク色に戻るまでの時間を計ります。
5.3秒以上かかる場合には脱水の可能性があります。
※小児や成人男性は2秒、成人女性は3秒、高齢者は4秒とする場合もあります。
皮膚の張り(ツルゴール)を観察
1.上腕や手背(手の甲)の皮膚を爪を立てずにつまみ、持ち上げます。
2.正常な皮膚の張りに戻るのに3秒以上かかった場合に脱水を疑います。
※高齢の方では加齢に伴い、皮膚の張りが低下している場合があります。このときは、健常時を基準にして3秒以内で戻るかを確認します。(健常時の皮膚の張りを予め確認する必要があります。)
熱中症になったら?
もし、熱中症になったら直ぐに応急処置をしましょう。どんな応急処置が必要になるか。それは「FIRST」です。これは、以下の頭文字を取ったものです。
Fluid(水分補給を行いましょう)
Ice(身体を冷やしましょう)
Rest(涼しい場所で休みましょう)
Sing(15~30分ほど様子をみます)
Treatment(改善が見られない場合は治療が必要です。病院への受診を早急に行いましょう。)
おわりに
いかがでしたか?梅雨がそろそろ明けてきます。今から対策を講じ、実践していきましょうね。
熱中症は人の生命に関わってきます。是非、今回の内容を覚えて今年の夏を乗り切りましょう。
これを読んだ方々は、今回得た知識を周りの知人・友人・患者様に発信して欲しいです。みんなで熱中症を予防していきましょう!
最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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