褥瘡の予防と治癒
栄養の基礎的な話も終盤です。今回は、「褥瘡」について学んでいこうと思います。
よく入院している方にも褥瘡ができてしまう場面を目にします。
褥瘡は偶然起きるものではありません。必ず理由があります。
褥瘡の定義、発生要因、治癒を妨げる要因、栄養管理、栄養サポートなどについて学んでいきましょう。
褥瘡とは
日本褥瘡学会では以下のように定義されます。
身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血障害に至り褥瘡となる。
簡単に言えば、皮膚の表層に近い部分が長時間の圧迫を受けて血液供給が少なくなって腐るってことですね。
発生要因
発生要因は大きく3つに分けられます。
圧迫
- 身体の可動性や活動性が減少
寝ているときに好きなように身体を動かせないことは除圧ができないことを意味します。除圧ができず、ずれを解消できずに皮膚が圧迫・擦れてしまい、褥瘡となります。
- 知覚認知の障害
私たちは圧迫やずれを嫌います。嫌うからこそ身体を動かします。
好きなように身体を動かせても、それを嫌がることができる感知能力が無ければ、ずれや圧迫を解消できません。
外的因子
- 過度の湿潤
汗や尿で皮膚が湿潤(しめる)と、皮膚がふやけてしまいます。その状態では摩擦やずれが生じやすくなります。
- 摩擦とずれ
内的因子
- 栄養不良
- 加齢
- 低血圧
- 低酸素脳症
- その他
褥瘡の好発部位
骨が突出した部分で褥瘡は発生しやすくなります。姿勢ごとに確認してみましょう。
「圧迫」と「ずれ」の発生要因と、褥瘡に対する治療・予防としてどのように体位変換すれば良いのかについては以前にまとめています。こちらも併せて読んでおきましょう。
褥瘡の予兆を判断するテスト
上記の部位の皮膚が赤くなっていると、褥瘡に移行する可能性があります。
人差し指で赤くなっている部分を軽く3秒ほど圧迫し、白っぽく変化するかどうかを確認してみましょう。
押したときに白く変化し、離すと再び赤くなるものは褥瘡ではありません。
押しても赤みが消えずそのままの状態であれば、血流障害が始まっていると判断し、初期の褥瘡と考えます。
画像引用:褥瘡について|日本褥瘡学会
このテストは、褥瘡予防・管理ガイドライン第3版CQ7.3で推奨度C1とされています。
創傷治癒を妨げる要因
創傷治癒を妨げる要因は大きく2つに分けられます。代表的なものを紹介します。
全身的な要因
- 低栄養状態
- 全身の血行障害
- 基礎疾患
⇒糖尿病、膠原病、腎臓病、肝疾患、呼吸器疾患 - 薬物投与
局所的な要因
- 局所の血行障害
⇒末梢動脈疾患、静脈瘤、圧迫、喫煙など - 遺物・壊死組織
- 感染
- 温度
- 通常の殺菌・消毒
⇒基本的に消毒は組織を傷害します。組織再生を期待したい褥瘡治療という場面では使用しないのが原則です。消毒の代わりに微温湯で洗浄します。
褥瘡に対する栄養管理・栄養サポート
褥瘡治療の基本方針は以下の通りです。
1.褥瘡原因の除去
2.湿潤環境を作らないこと
3.消毒は意味がない
4.壊死物質や浸出液を積極的に除去する
5.こまめに創の洗浄、処置を行う
今回は上の基本方針には書いていないですが、非常に重要な「栄養」に絞って話を進めようと思います。
栄養が関わってくるのは、褥瘡の中でも慢性的な褥瘡です。1~3週間の急性期を過ぎて経過しているものです。
慢性褥瘡では何らかの栄養学的な問題を抱えている可能性が高いです。栄養管理で気を付けることは以下の3点です。
1.創傷の原因となった原疾患(糖尿病など)の影響を考慮する
2.摂取している栄養量を確認し、何が不足しているのかを把握する
3.創傷治癒に必要な特定の栄養成分を摂取する
受傷直後は全身に炎症反応が現れます。これは、代謝量の増加を意味します。
代謝は経過とともに大きく変動します。創傷した組織の回復のためにエネルギーや栄養素の需要も高まります。
受傷時の栄養状態が良好であっても、早期からの栄養介入が重要となります。
先ほどの『創傷治癒に必要な特定の栄養成分』については以下の表をご覧ください。
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