大腿直筋
解剖学的特徴
大腿直筋は大腿四頭筋のなかで唯一の二関節筋です。つまり、股関節と膝関節の2つの関節の作用を持ちます。
また、大腿直筋を浅層と深層に分けた時、浅層は羽状構造で、深層は平行構造となっています。
羽状構造と平行構造
この構造は筋線維の走行によって分類されています。
羽状構造:鳥の羽のように少し斜めに走っている筋肉
上の図の右側をご覧ください。
筋肉の中の筋線維を1本取り出して考えてみましょう。(この例えが分からない方は、筋肉を1本の筋線維として考えてみましょう。)
平行構造は1本の筋線維が縮む距離と筋肉全体が縮む距離と一致します。
例えば、筋線維が1cm縮むと筋肉全体も1cm縮みます。
これに対して、羽状構造は筋線維が斜めに走っているため、筋線維が1cm縮んでも、筋肉全体としては0.3cmほどしか縮むことができません。
羽状構造と平行構造の筋線維が同じ長さで縮んだとしても、筋肉全体でみると平行構造の方が大きく縮むことができるのです。
つまり、平行構造の方が羽状構造に比べて筋肉の収縮スピードが速くなるということになります。
平行構造の職業は武闘家タイプといったところでしょうか。
一方、羽状構造については、小さく縮むという特徴を活かして、その筋肉の中に筋線維を多く詰め込むことができます。
つまり、羽状構造の方が平行構造に比べて筋肉の収縮力が大きくなるということになります。
羽状構造は筋肉界の戦士タイプですね。
まとめです。
羽状構造と平行構造
羽状構造:大きな力を発揮することができる。
平行構造:素早い収縮ができる。
起始停止
起始:下前腸骨棘および寛骨上部の溝
停止:大腿四頭筋総合腱は、膝蓋骨を包み込んで脛骨粗面に停止する。
神経支配
大腿神経(L2~L4)
血液供給
外側大腿回旋動脈
働き
膝関節の伸展
SLR運動
骨盤が前傾(下肢が固定された場合)
SLR(straight leg raising)
上記の働きが複合すると、『SLR(straight leg raising):下肢伸展挙上運動』と呼ぶ運動になります。
SLRテストは聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。腰下肢痛に対する診断手技です。

SLRテストは坐骨神経痛があると陽性だよね!

その通り!だけど、それだけではないんだよ。
他動で行うか、自動で行うか、疼痛評価のほかに、筋力評価や柔軟性の評価にも使われているんだ。
詳しくは以下のリンク先で解説しています。SLRテストを曖昧に理解している方は是非、一読してみて下さい。
触診
被験者を座位にして、下腿を下垂させましょう。
大腿直筋を触診するためにはまず、筋腹と大腿四頭筋共同筋腱の硬さの違いを確認しましょう。
硬さの違いが分かった後は、大腿四頭筋共同腱の辺縁を探ります。
上の図のように膝蓋骨の上部に当てた指を左右にずらしていきます。
そして、「固い場所(大腿四頭筋共同腱)と柔らかい場所(内側広筋・外側広筋)」の境目を確認しましょう。
左右にずらして大腿四頭筋共同腱の辺縁が把握できたあとは、この腱がどこで大腿直筋に移行するかを触診します。
にずらしていた指を今度は上下にずらしていきます。
上下にずらしていき、徐々に近位へと指を進めていきます。
そして、「固い場所(大腿四頭筋共同腱)と柔らかい場所(大腿直筋)」の境目を確認しましょう。
「固い場所(大腿四頭筋共同腱)と柔らかい場所(大腿直筋)」の境目より少し近位に指を置いて、被検者に股関節の屈曲運動を反復させ、大腿直筋の筋収縮を感じましょう。
大腿直筋の短縮の評価
大腿直筋の短縮の評価として「尻上がり現象」が有名です。
腹臥位で膝関節を屈曲することで、大腿直筋を伸張させます。
短縮が起きている場合には、骨盤に起始を持つ大腿直筋が過剰に引っ張られて骨盤が前傾するために生じます。
広筋群(内側広筋・中間広筋・外側広筋)に拘縮がある場合は、上記のように尻上がり現象は見られませが、膝関節の屈曲拘縮が観察されます。
検肢と対側の下肢を下垂させ、股関節を最大屈曲することで骨盤を後傾位で固定することができます。
この状態で検肢の膝関節を屈曲させます。このときの膝関節屈曲の角度を計測しましょう。
尻上がり現象は現れませんが、この肢位で計測することで大腿直筋の短縮を数値化できます。
筋力強化方法
大腿四頭筋の筋力強化方法の1つに有名な「muscle setting(クワド セッティング)」というものがあります。
方法は検索すればいくらでも出てくると思うので、今回はどの肢位で効率よく鍛えることができるかを紹介します。
この文献では、背臥位・両足趾を床に接地した腹臥位・股関節45°屈曲した長坐位・立位の4つの肢位でそれぞれ大腿四頭筋のmuscle settingを行い、内側広筋斜頭(VMO)、大腿直筋(RF)、外側広筋(VL)の3筋の筋活動を計測しています。
結果を以下に示します。
この結果から、3筋の全てが両足趾を床に接地した腹臥位にてmuscle settingを行うことでより高い筋活動を示していることが分かります。
特に、大腿直筋では高い値が出ていますね。理由については、上記の文献を読んでみて下さい。
立位では、3筋とも筋活動量が少ないようです。
この要因として、『立位では、床面を接点として体重指示や多関節の運動が行われており、それぞれの筋が必要最低限の合理化された活動をしているため』と述べられています。
関連疾患
・大腿四頭筋拘縮症
・下前腸骨棘裂離骨折
・大腿直筋肉離れ
・脊椎分離症
・慢性腰痛症
・jumper`s knee
・Osgood-Schlatter病
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