唾液の基礎
今回は唾液の基礎について唾液の分泌と種類、唾液腺の分類、唾液の役割、唾液減少症と口腔乾燥症など唾液の生理学的な知識と疾患について簡単に解説しています。
唾液腺から口腔内に分泌される分泌液のことです。
分泌量
1日あたり1ℓ〜1.5ℓ分泌されています。自販機で売られている500㎖ペットボトル2〜3本分の量と考えるとかなりの量が分泌されていんですね。
唾液の分泌量は1日の間で変化します。
食事時や会話時には多く分泌される傾向にあります(刺激時唾液)。
安静時(安静時唾液)では1時間当たり平均19㎖であるのに対して、睡眠時には1時間当たり平均2㎖と少なくなります。
唾液の役割については後ほどお話はしますが、唾液には抗菌(自浄)作用があります。
唾液の分泌量が減るということは口腔内に細菌が増えるということになります。
pH(水素イオン指数)
pH(水素イオン指数)は5.5〜8.0の間で変動します。
食事の際には口腔内のpHは酸性に傾きます。酸性になることで歯の成分が溶け出します。
このままでは歯が溶けてボロボロになってしまいます(脱灰)。
しかし、唾液の作用により約40分間でpHはアルカリ性に傾くことで中性に戻ります(緩衝作用)。
また歯の成分も元に戻ります(再石灰化作用)。これも唾液の役割の一つで、いわゆる自然治癒能力です。
唾液の分泌量が低下すると、この再石灰化作用が減少するので脱灰が進み、う歯(虫歯)になりやすくなります。
唾液腺の種類と特徴
唾液が分泌される器官を唾液腺と言います。
大きく、大唾液腺(三大唾液腺)と小唾液腺に分けられます。
大唾液腺は耳下腺、顎下腺、舌下線に分けられます。小唾液腺は口唇腺、舌線、頬腺、口蓋腺、臼後腺に分けられます。
耳下線からはアミラーゼ(消化酵素)を含んだ漿液性(さらさら)の唾液が分泌されます(消化作用)。
顎下線からは粘液性の唾液が多く分泌され、舌下線からは漿液性の唾液が分泌されます。
漿液性と粘液性
漿液性の唾液を分泌する唾液腺は副交感神経(顔面神経や舌咽神経)によってコントロールされます。
口の中を洗い流して清潔に保つ(自浄)作用や、食べ物を湿らせて粉砕しやすい形にすることで飲み込みやすくする(食塊形成)役割があります。
粘液性の唾液は交感神経によってコントロールされます。
口腔内粘膜が傷つくのを防ぐ役割や口腔内粘膜の保湿により咀嚼や嚥下、発語の運動を円滑にする役割(潤滑作用)や、細菌を絡め取り、体内への侵入を防ぐ役割があります。
唾液の役割
前項でちらっとお話ししましたが、唾液の役割は大きく分けて8つあります。
2. 食塊形成作用
3. 自浄作用
4. 抗菌作用
5. 溶解作用
6. 緩衝作用
7. 潤滑作用
8. 保護・再石灰作用
※溶解作用:食べ物の中の味物質を溶解することで味覚を促進する作用(味蕾に作用して味覚が発現します。)
高齢者の味覚が低下すると言われているのは、味蕾が減少するのも大きな要因ですが、唾液の分泌量が低下することで溶解作用が減少するのも関係してそうですね。
唾液が減る原因
唾液が減少した状態のことを唾液減少症と言います。
原因としては以下が挙げられます。
2. 疾患によるもの
3. 薬剤によるもの
4. その他
疾患の例としては有名なものにシェーグレン症候群が挙げられます。
その他、糖尿病や甲状腺機能亢進症、脱水や腎疾患などの電解質異常、ストレスでも唾液が減少します。
唾液が減ることによる弊害
唾液が減ることで様々な悪影響が出現します。
例を幾つか挙げてみました。
- 自浄作用の低下
口腔内や咽頭に食物残渣(食べかす)が付着したままになることで誤嚥やう歯の原因となります。 - 保護作用の低下
口腔粘膜を保護する能力が低下することで義歯や硬い食べ物などによって口腔内が傷つきやすくなります。 - 湿潤作用の低下
食塊形成しにくくなるので誤嚥の原因となります。 - 溶解作用の低下
味覚が低下することに繋がります。食思低下や塩分過多により高血圧の原因にもなります。 - 潤滑作用の低下
口腔内粘膜同士がくっつきやすくなるので食塊形成が困難になったり発話しにくくなります。
嚥下障害と唾液の関係
嚥下障害により唾液を誤嚥する可能性があります。
また、水分摂取量の低下により唾液の分泌が低下します。
自浄作用が低下して口腔内汚染が強まった状態では細菌を多く含んだ唾液が咽頭に流れ落ちていきます。
その唾液を誤嚥することで誤嚥性肺炎発症のリスクが高まります。
口腔乾燥症
ドライマウスという言葉で聞いたことがある方も多いと思います。唾液量が低下すると口の中が乾燥します。
他にも口呼吸によっても乾燥する場合もあるので、唾液減少症=口腔乾燥症ではないことを覚えておきましょう。
原因としては唾液減少症と似ています。
2. 機能低下によるもの
3. 薬剤や外科的治療によるもの
4. 生活習慣などによるもの
・疾患によるもの
先ほどの唾液減少症と同様、シェーグレン症候群、糖尿病や甲状腺機能亢進症などが挙げられます。
・機能低下によるもの
義歯不適合により咀嚼機能が低下すると刺激時唾液が減少したり、口呼吸により口腔内が乾燥します。また、顔面神経麻痺により咀嚼機能や構音障害が発現することで刺激時唾液が低下します。
・薬剤や外科的治療によるもの
抗不安薬や統合失調治療薬、睡眠薬、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬などの使用により唾液量が低下します。
また、放射線治療や口腔がんにより唾液腺の切除をした場合に唾液量が低下します。
・生活習慣によるもの
喫煙や飲酒、頻回の間食により唾液量が低下します。
唾液分泌に関するアプローチ
唾液の分泌量が低下したときにどのようなアプローチがあるかを以下にまとめました。
- 口腔内を湿潤させる
保湿剤やサリベートなどの人工唾液で唾液の保護作用・潤滑作用を代償します。 - 口腔ケア
唾液の減少の有無に限らず必要です。口腔ケアによって自浄作用を補います。 - 義歯の調整・食形態の検討
食塊形成が困難な場合には食形態を検討します。 - 口腔機能に対するリハビリ
- 薬剤の調整
唾液量が低下する作用のある薬剤の調整や唾液分泌量改善薬の内服を検討します。 - 生活習慣の改善
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