ティルトとリクライニングとギャッチアップ
題名通りです。臨床で以上の言葉を曖昧にしか知らない人が多くいます。ポジショニングをする際には基礎的な用語となるので、今回の記事でしっかり押さえておきましょう。
ティルト
英語で書くと“tilt”です。訳は“傾ける”です。
よく「座面を傾ける」と覚えている人がいますが、もっと具体的にティルト機能を説明すると、背もたれと座面の角度を保ったまま、座面ごと後ろに傾ける機能のことです。
臀部への圧を背中に逃がすことができます。臀部の除圧ができない方、姿勢を保持できない方に有効なポジショニング方法です。
リクライニング
英語で書くと“Reclining”です。訳は“もたれる、横たわる、後ろに倒す”です。
座面にかかる体圧を分散させ、疲れにくくする効果がありますが、リクライニングの度に身体が前方へズレてしまいます。このズレのことを剪断力(せんだんりょく)と言います。後程詳しく紹介します。
ギャッチアップ
語源は別に重要ではないのですが…。
アメリカの医師ウィリス・ギャッチさんがクランク機能を用いた頭・お尻・膝の角度を調整できる医療用のベッドを初めて開発したことに由来します。「ギャッチ」+「Up(アップ;上げる)」の和製英語です。
ギャッチアップベッドの背部や脚部の調整のことを指します。
先ほどのティルト・リクライニングと違い、持ち上げる方がギャッチアップです。
どれだけ傾ければいいの?根拠となる論文紹介
結果から申し上げると、「これ!」という答えはないです。
身体の状態は人それぞれです。体重も身長も疾患も違うので、試行錯誤・ケースバイケースで評価していく必要があります。
ただ、目安となる角度は論文で明らかになっているので紹介しようとおもいます。
☞車椅子座位におけるティルト・リクライニングの組み合わせが臀部外力に及ぼす影響
角度の変化による圧の変化に着目した論文です。
外力⇒圧迫力+剪断力が分からない人は、以下のリンクで解説しています。
今回の論文・過去の先行研究を含めた結果が以下の1~3になります。
1.リクライニング⇒圧迫力の軽減、前方剪断力の増加
2.ティルト5°、10°⇒前方剪断力の軽減
3.ティルト15°、20°⇒後方剪断力の増加
リクライニングすることで圧迫力は軽減できますが、前方の剪断力が増し、ティルトすることで後方の剪断力が増すんですね。
一般的な最適解はこれ!
リクライニングとティルトは剪断力に関して、お互いに拮抗する力が働いており、この力が釣り合うとき(ティルト10°)に外力の影響を最小限に留めることができます。
リクライニング20°とティルト10°の設定が、圧迫力及び、剪断力の双方を軽減することができる
補足
また、この角度は脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)の減少をもたらすことがでることが別の研究で明らかになっています。☞車いすのティルト機構の角度変化とティルトリクライニング機構が下肢血行動態に及ぼす影響
Deoxy-Hbの減少=静脈還流量の増加
静脈還流量の増加⇒浮腫の軽減や深部静脈血栓症の予防
静脈還流量を増加させるためには、ティルト30°の設定が必要ですが、リクライニングを併用することでティルト20°で良いことが明らかになっています。
「角度」を定義しよう!
ティルト・リクライニング・ギャッチアップの共通点は「角度」を変えることです。
どこの「角度」を基準に置くかで傾ける角度と最終的な位置に違いが生じるので、その基準というものを学びなおしましょう。
ティルト角度
赤線が基準線です。「床との平行線と座面がなす角度」をティルト角度と定義しましょう。
リクライニング角度
赤線が基準線です。「床との垂直線と背張りがなす角度」をリクライニング角度と定義しましょう。
ギャッチアップ角度
ギャッチアップ角度は「背上げ」と「足上げ」に分かれます。基準線はティルト角度同様に一番下の赤の点線(床との平行線)です。「床との平行線とマットレスがなす角度」となります。
おわりに
用語は便利ですが、きちんと理解したうえで使わないと誤解を招くリスクがあります。それが患者様の不利益になることだってあります。
例えば、ギャッチアップの基準線を90°と間違って覚えていた人が、病棟の看護師さんへ「この方は誤嚥のリスクが高いのでポジショニングは背上げ30°でお願いします。」と伝えるとどうなるでしょう。
背上げギャッチアップ60°を必要としている人が背上げギャッチアップ30°の設定でポジショニングされてしまいます。それは誤嚥を招き、最悪死に繋がります。
こんなことにならないために適切な用語を適切に使い分けましょうね。最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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