トレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ徴候
今回は学校の授業や臨床でもよく見かける「トレンデレンブルグ徴候」と「デュシェンヌ徴候」について紹介させて頂きます。
よくごっちゃになって覚えている人がいるので、そのような方は是非、今回の記事を読んで、その違いを理解して欲しいと思います。
また、これらの徴候に対するリハビリも紹介させて頂きます。参考程度に読んでみて下さい。
トレンデレンブルグ徴候とは?
まず、教科書的な説明から。
画像で確認してみましょう。先ほどの説明通り、骨盤が立脚側に持ち上がります。
体幹が遊脚側に倒れる場合もあることは知っておきましょう。
いずれもトレンデレンブルグ徴候と呼びます。
動画でも確認してみましょう。
下の図は動画の切り抜きです。
トレンデレンブルグ徴候が出現しているのは左下肢の立脚期ですね。
ということは、左股関節の中殿筋ないしは小殿筋に麻痺または筋力低下が認められるのが推測できます。
服のしわにも注目して欲しいです。
両脚支持のときは均等にしわが入っています(下右図)。トレンデレンブルグ徴候が出現するとそちら側にしわが寄っていますね(下左図)。
なぜこんな姿勢になるの?
原因は中殿筋や小殿筋などの股関節外転筋群の麻痺や筋力低下です。
ここでまず、トレンデレンブルグ徴候が出現している場合の片脚立位と健常の場合の片脚立位を比較してみましょう。
骨盤の傾きが逆ですね。健常の片脚立位では骨盤は若干片脚側に落ちます。
この図に小殿筋・中殿筋を書き加えてみましょう。
左側の図では小殿筋・中殿筋が弱ってしまい、伸びちゃってますね。
一方、右の図では小殿筋・中殿筋が等尺性の収縮をしており骨盤の傾きが抑えられています。
ここで「等尺収縮をしている」と書いていますが、片脚立位時の中殿筋の作用は「等尺収縮」が主ですが、歩行時には「遠心性収縮」をします。ここについては後述します。
これが起こると何がダメなの?
ここを理解していない学生さんが多くいる印象を受けます。
「良くない現象が起こっている」からとりあえず中殿筋を鍛えよう!で終わってはいけません。
なんで「良くない」かを知っておきましょう。
とは言っても単純な話です。
バランスが悪くなるのです。
この現象により重心が左右に大きく振られ、側方に揺れることで転倒のリスクが高くなるのです。
もう一つ、この現象が起こっているということは、小殿筋・中殿筋の麻痺または筋力低下が生じていること指します。
これを代償するために大腿筋膜張筋ー腸脛靭帯が過剰に働き、身体を支えようとします。
以下の図をご覧ください。
真ん中にヒビが入ってて(膝関節)、すぐに折れる棒(大腿骨と脛骨)に取っ手(大腿筋膜張筋-腸脛靭帯)が付いてて、それを横に強く引っ張る(過剰収縮)と棒はどうなるでしょうか。
下図の右のように、内反方向に折れますよね。
トレンデレンブルグ徴候では内反膝も特徴的であることを覚えておきましょう。
デュシェンヌ徴候とは?
トレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ徴候の違いを曖昧に理解している人が多いです。
ここで違いをはっきりさせておきましょう。
言い方が悪いかもしれませんが、デュシェンヌ徴候とは、トレンデレンブルグ徴候で傾いた骨盤を、体幹を立脚側へ大きく側屈させることで「健常のふり」をしていますね。
荷重時に体幹を側屈することで重心線を荷重側の大腿骨の骨頭に近づけることで、弱化した中殿筋の筋力でも骨盤を支持することができるのです。
荷重時に毎回、体幹を側屈をしなければいけないので体幹への負担が大きくなり、腰痛が出現する場合があります。
また、体幹の側方への動揺が大きくなるので、トレンデレンブルグ徴候同様に側方への転倒リスクが高くなります。
さあ、動画で確認してみましょう。
トレンデレンブルグ徴候・デュシェンヌ徴候に対するリハビリ

中殿筋が弱ってるなら鍛えればいいんでしょ!簡単じゃん!

実はそんな単純じゃないんだ…。中殿筋の筋力が強くてもトレンデレンブルグ徴候が出る人もいるよ。

最大の筋力が強くてもだめなんだね。

そう!大事なのはどれだけ早く中殿筋の最大筋力を発揮できるか。つまり、「スピード・瞬発力」が大切なんだ!
鍛えるべきは中殿筋の筋線維と筋紡錘
中殿筋をむやみに鍛えてもあまり意味はありません。
筋トレは意識して行いますよね。
でも歩行時に筋力を使うときに意識して中殿筋を使いますか?
答えは「No」です。歩行では無意識に中殿筋の筋力を使っています。
無意識ということは、随意性の制御ではないということです。
中殿筋の筋力を無意識に歩行に使用するには、きちんとそれに対する訓練が必要になります。
「それ」とは・・・?
先ほども言いましたが、中殿筋の働くスピードを鍛えるのです。
筋の伸張の程度や伸張速度(固有感覚)を感知する受容器を覚えていますか?
筋紡錘でしたね。
小殿筋や中殿筋の筋力を強くする他に、筋の中にある受容器(筋紡錘)も鍛えていきましょう。
遠心性収縮の方が効果的である
トレンデレンブルグ徴候やデュシェンヌ徴候を生じた際に中殿筋や小殿筋の筋力を強化するときは遠心収縮が効果的です。
その理由を2つ述べます。
速筋繊維からなる運動単位が賦活されやすい。
イタリアの研究グループによると、伸張性(遠心性)にて筋力を発揮をしているときには、速筋線維からできている大きな運動単位が使われることが示されました。
歩行時の中殿筋の収縮様式は遠心性である。
健常者の歩行へLoading ResponseからMid Stannceまでの中殿筋の収縮様式は、遠心性収縮です。
遠心性の制御ができないとトレンデレンブルグ徴候やデュシェンヌ徴候は改善されません。
股関節内転筋力にも着目しよう!
中殿筋の拮抗筋である股関節内転筋の筋力や歩行中の筋緊張も評価しておきましょう。
中殿筋の筋力低下を股関節内転筋が代償したり、以下の文献のように股関節内転筋の相対的な活動量の増加によりトレンデレンブルグ徴候を呈する場合もあります。
外内転中間位での内転筋力が外転筋力に勝り,内転筋の加速能が外転筋に勝ると,片脚起立での股関節の安定性を損なう内転筋の回転分力が外転筋の回転分力に勝り,その結果T徴候が出現することが理解できる.したがって,T徴候の出現が外転筋力低下だけでなく,外内転筋の同時収縮能の不均衡でも引き起こされることを同様に理解する必要がある。
『T徴候』とは「トレンデレンブルグ徴候」のことです。
おわりに
今回はトレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ徴候について紹介させて頂きました。
リハビリの方法については今回の記事に載せた以外にも多くあります。
今回の記事でトレンデレンブルグ徴候やデュシェンヌ徴候についての概要を少しでも理解して頂ければ幸いです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。お疲れさまでした。
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