知っておこう!バイタルサインの正常値
医療従事者なら、一度は計測したことがあるでしょう。測って記録して終わりになっていませんか?
しっかりと正常値を把握して、今の身体の状態がどうなのかを患者様・チームに伝えるまでがバイタルチェックです。
今回は、バイタルサインについて、正常値や年齢による変化など基礎的な内容を紹介します。
医療従事者のみならず、バイタルは病気になったときや、健康診断でも計測する内容なので、医療の知識がない方でも、今回紹介するものだけはしっかりと覚えておくようにしましょう。
バイタルサインとは?
そもそも『バイタルサイン』って何なのか?
答えは簡単です。
その人が生きているのか死んでいるのかを見分ける方法です。
ちょっと大袈裟でしたかね…?バイタルサインは医学用語で、医療現場では『バイタル』なんて言い方もします。
意味としては「生命徴候」と言います。
人間が生きているときに示す徴候のことを指します。
心臓が拍動し、血圧が一定値以上に保たれ、呼吸をし、体温を維持し、排尿・排便を行い、意識状態に応じて反応し、脳波が特定のパターンを示すことで、人は生きているとみなされます。
今回の題目である『バイタルサイン』は上記の赤文字の中でも、心臓の拍動と血圧と呼吸と体温を指します。
これに加えて、酸素飽和度という項目もバイタルサインとして含めることがあります。
これら5つのサインを数値化して示します。
まずは、これらのバイタルサインの基礎知識から説明します。
心臓の拍動(心拍数)
心臓の「ドクン!ドクン!」という拍動が1分間に何回繰り返されるかを数値化したものです。心拍数・脈拍とも言います。略語は『HR(heart rate)』です。
測定は基本的に、橈骨動脈でチェックします。
親指は計測する方の拍動も大きいため、相手側の拍動と混同しやすいため、使わないようにしましょう。
また、強く圧迫しすぎると血流を阻害してしまうこともあるため、軽く押すように指を置きましょう。
15秒計って、その数値に×4をした値で求めることがほとんどです。
時間短縮のためです。しかし、心臓のリズムが一定でない方(不整脈)は1分間計りましょう。
そのときに、脈拍数・期外収縮数の2つを確認しましょう。
血圧
その名の通り、血管の圧です。心臓が収縮することによって、心臓から血液が勢いよく全身をめぐります。その血流によって血管は圧迫を受けます。このときの圧の強さを示します。
消防士の放水訓練が良い例だと思います。1:03~1:13の間にホースがパンパンになっていますよね?
圧があまりにも強すぎて(高血圧)ホースが破裂すると出血します。
脳の血管がこのように破裂すると、いわゆる脳卒中となります。
朝一番に計測した値をその人の基準値と決めましょう。これを「基礎血圧」といいます。
運動後やストレスなどで血圧が上昇しますが、「基礎血圧」と比べてどの程度上昇したかをチェックしましょう。
ところで、血圧には2種類があります。収縮時血圧(最高血圧)、拡張期血圧(最低血圧)です。『収縮/弛緩』というのは、血管のことではなく、心臓のことです。
心臓(心筋)にグッと力が入って収縮したときに心臓から全身へ血液がグッと排出されます。これが収縮時血圧です。
心臓の中に血液がスーッと戻ってきて、心臓が膨らみます。このときの圧力を拡張期血圧といいます。
解釈としては、血圧が高いということは、血液がたくさん送り込まれていたり、血管が細くなっているなどの理由で血液が通りにくくなっている状態です。
一方、血圧が低いということは血管が破れていたり、緩んでいたり、心臓から血液が十分に送り込まれていない状態を示します。
具体的な数値は後述します。
呼吸数
身体に酸素を取り入れ、二酸化炭素を出すのが『呼吸』です。
安静時にて1分間の呼吸数をしっかりカウントしましょう。
観察方法はお腹の膨らみです。お腹が膨らんで、へこんだら1回とカウントしましょう。
体温
風邪をひいたときに腋に体温計をいれますよね?かっこいい言い方をすれば、体温の測定は、主に腋窩温で示すことができます。
予測体温ではなくて、きちんと10分~15分の時間をかけて実測値を計りましょう。
左右差や時間帯によっても体温に差が出るので、同部位で1日に4回計測するようにしましょう。
酸素飽和度(SPO2)
酸素は人間が生きていくのに必須です。
その酸素は血液(具体的には、血液に含まれる赤血球の成分の1つであるヘモグロビン)によって運ばれます(ヘモグロビンと酸素が結合することで運ぶことができます)
『どのくらいの割合でヘモグロビンと酸素が結合しているのか』が酸素飽和度です。
SPO2の年齢による変化はありません。
96~99%が標準値とされ、90%以下の場合は十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態(呼吸不全)になっている可能性があります。
SPO2はパルスオキシメーターという機械で簡単に計測ができます。
ちなみにこの機械で同時に脈拍も計測できます。医療従事者の方は1個はポケットに入れておくと便利かもしれません。
医療従事者向け
年齢別に差があるのはPaO2(動脈血酸素分圧)です。
肺における血液酸素化能力の指標となります。年齢を重ねるごとに値が小さくなっていきます。
- 仰臥位:PaO2=100-0.3×年齢
- 座位:PaO2=100-0.4×年齢
で算出できます。結果は以下をご覧ください。
- PaO2<40mmHg:重篤な低酸素血症
- PaO2<60mmHg:低酸素血症
- PaO2>80mmHg:基準値範囲
小児の正常値
新生児~12歳までの経過を表で示しました。
新生児~幼児にかけては心拍数・呼吸数は高値を示します。
これは、心臓や肺が小さいので回数で補っているからです。
一方、血圧は低値を示すことが多いです。
心臓からの一回の血液排出量が少ないため、その分血管に加わる圧は小さいからです。
成人・高齢者の正常値
心拍数
正常値は60~80回/分です。
60回/分以下を徐脈、100回/分以上で頻脈となります。
頻脈は、脈の数が多いということです。
心臓の機能が低下した人は、心臓の1回の「ドクン!」の力が弱く、1回の「ドクン!」で送り出される血液の量が少ないことを意味します。
そのため、脈の数を増やしてこれを補おうとします。
高齢者の場合
成人に比べて脈拍数は60~70回/分と少ない値となっています。
血圧
上の表はWHOによる高血圧の分類です。
高血圧の何がいけないのか?
それは、脳出血のリスクの増大・心臓への負担の増大・その他の臓器への悪影響などが挙げられます。
上の表には載っていませんが、最高血圧(収縮時血圧)が100㎜Hg以下を低血圧と言います。
リハビリを行う際には、アンダーソンの基準が用いられますが、安静時の血圧は境界値血圧である収縮時血圧140㎜Hg、拡張期血圧90㎜Hgを基準に、これを上回らないのが理想です。
入院中に血圧の管理ができるように教育するのもリハビリの1つですよ。
呼吸数
成人は12~18回/分が基準値です。
24回/分以上を頻呼吸、12回/分以下を徐呼吸といいます。
頻呼吸では、心不全や肺炎、骨髄炎、尿毒症などを疑います。
徐呼吸では、脳圧の亢進や気管支閉塞を疑います。
高齢者の場合
65歳以上の高齢者では12~28回/分、80歳以上の高齢者では10回~30回/分と、成人に比べて呼吸回数が多くなる傾向にあります。
体温
36℃~37℃前後が正常値です。35℃以下、38℃以上の場合は異常値なので、医師に相談しましょう。
平均値はばらつきがあるので、その人その人の「基礎体温」を把握しときましょう。
高齢者の場合
平均体温は36.66℃と、成人に比べて低い値です。
高齢者は低体温になることがしばしばあります。
そして、高齢者は温度に鈍感になっているので、低体温に気づかない方もいます。
そういう場合のためにも、毎日の計測をお勧めします。
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